まじめにぼそ その2

20歳の時、就職して

一人暮らしにも大分慣れて
自由になるお金がちょっと出てきたので
それから毎年

「自分への誕生日プレゼント」

を贈る楽しみを生活の中に加えました。
丁度、夏のボーナスが出て
金銭的余裕もある時期なので。

今から、確か13年前の6月上旬。
21歳の誕生日プレゼントの品を決めました。



蟹座マークのペンダントとイヤリングです。
(何か、土偶の顔にも見えますが...)

当然、 店で売っているはずもなく
思い切ってオーダーで作ってもらおうと一大決心をして
会社帰りに、夜のアーケード街へと出掛けた。

そこは、七夕祭りのメイン会場に使われるほど規模の大きい
アーケード街で
夜になると、シャッターの閉まった商店や銀行の前に、
束の間の店が開かれる所だった。

主に占い士。それと手作りアクセサリーを売る人々。

当時、手作りでアクセサリーを作って貰えるだろう職種の
人達を、そこだけでしか知らなかった。
けれど、普段は寄り付きもしない路上アクセサリー屋。
しかもオーダーで作ってくれと頼まなければならないので
どの店の人に頼もうか
どうやって切り出そうか
断られたらどうしようかと
数件のアクセサリー屋の前を、悩みながらうろうろしてました。

何度か往復した末、やっと私が近づいたのは
とある銀行のシャッターの前。
そこにに店を出していた、髭と髪がぼうぼうしている
年の頃30半ばの男性。
「おっちゃん」と呼ぶのが似合う風貌の店主だった。
何故その人にしたかは分からないけど、思い切ってその店の
前に立ちました。
路上に敷かれた黒いシートに並ぶ、手製のリングやチョーカー。
その前に屈みこんだ私に対し「いらっしゃいませ」と
言い掛けたおっちゃんに

「希望のアクセサリーって、作って頂けるんでしょうか」
と尋ねてみた。

おっちゃんは、突然の申し出に目を丸くしたが、すぐに
気を取り直し「出来るけど、どんなの?」と聞いてくれた。
「星座の、蟹座のマークで・・・」
「・・・・図柄は、絵か何かないかな?」
「絵、ですか」
口頭で説明しようと思ったが、おっちゃんはまず絵で形状と
大きさを見せてくれ、それでないと製作可能か、金額は幾ら
かの判断がつかないと押し切るように言いました。

何時いつまで仙台にいるから、早めに図案を欲しい。
俺はいつもこの場所に店を出しているから

そう言われ、その日は帰路に着きました。

翌日、会社のPCを使って昼休み時間に図柄の製作に
取り掛かりました。
使ったのは、当時普及し始めたWindows3.1のペイント機能。
まだツールを使い慣れない状態で、失敗に失敗を重ね...
結局、あんな土偶みたいな形状に落ち着き、ダメ元で
画像を縮小させてイヤリング用の画像も作ってみました。
定時後、図案を携えておっちゃんがいるだろう銀行の
シャッターの前へ。

昨日と同じように店を広げているおっちゃんに、図案を
作って来ましたと紙を出したら
(本当に持ってきたよ・・・)と言いたげな表情で紙を
受け取り(変な形だなぁ)といった風に首を傾げました。
素材と色の希望を聞かれたので
「色は金で、イヤリングの方は細工が難しければ結構です」
と答えた。
「金・・・かぁ・・」
少し悩むように呟き、明日には金額を出すと言われた。

次の日、おっちゃんから出された金額は
メッキ加工:11,000円
真鍮板加工: 7,000円
素材の違いが分からず、説明を受けた。

あんたの言う、金色に近いのはメッキ加工なんだ
真鍮板は、少し銅に近くなるかな
ただメッキだと、その時は金色で綺麗なんだが
時間が経つとどうしても剥げてくる
真鍮板は汚れてきても、専用の金属磨きか
歯磨き粉でもいい
それで拭いてやれば、何度でも綺麗になる
俺としては・・・
拭けば元に戻って、長く使える
真鍮板の方が、好きだなぁ

メッキは、11,000円
真鍮板は、 7,000円

儲かる方を勧めずに、長く使える方を勧めた
おっちゃんに、職人気質を感じ
真鍮板での加工を頼んだ。

2−3日後だったろうか
出来上がりの日に、7000円と少しばかりの
菓子折りを携えて、路上の店を訪れた。
おっちゃんは、少し自信なさそうに出来上がりの品を
見せてくれた。
銅色に近いと言われていた真鍮板は、
私が思っていたよりもずっと金色に近く
しかも、難しいから期待しないでくれと言われていた
イヤリングパーツも、ちゃんと作ってあった。

「これで、いいのかな?
 気に入らなかったら、金はいらない」

それが
完成品を前にしたおっちゃんの第一声だった。

気に入ったので、定額の7000円と前準備に手間
取らせたからと菓子折りを渡すと、凄く焦って
本当にいいのかと念を押された。
品を受け取って帰路に着こうとすると、おっちゃんは
手入れの方法を何度も何度も説明してくれた。

「ちゃんと磨いてやれば、また綺麗になるからな」と

それが、見送りの言葉でした。

数日後
夜のアーケード街に出て、あの銀行の前に行ったけど
そこにおっちゃんの店は無かった。
少し離れた場所に店を出していた別の店主に、
あの場所に店を出していた人を知っていますかと
尋ねた。

「ああ、あいつなら
 つい2日前にここを発って、西に向かったよ
 あなた、アクセサリー作ってもらった人だね
 あいつ、ずっと出来を気にしていたよ
 本当に気に入ってくれたのかなってさ」

本当に気に入っていますよと、会えたら伝えて
もらえますかと返した。

「俺らは、方々旅しているから
 会えるかどうかは難しいよ
 でも会ったら、そう言っておく」

それから
方々のイベントで蟹座アクセサリーを
ご披露したが、別ジャンルに移ったことにより
それはアクセサリーケースの奥にしまわれ
日の目を見ることは無くなっていきました。

10年、経って
また、イベントに付けて行こうと思い立ち
再び、アクセサリーを取り出すとそれは
すっかり薄黒く汚れていて
当初の面影は失せていました。
初め、歯磨き粉で磨いてみたけれど汚れは殆ど落ちず、
専用の金属磨きを購入しました。

金属磨きで拭き取ると、少しずつ光が出てきて
あの日、あの場所で初めて受け取った時の色艶が
戻り始めてきました。
10年分の汚れを、全て落とすのに要した時間は、
約30分。
おっちゃんの言った通りに磨ききったとき、
アクセサリーはまた、13年前の色に戻りました。

おっちゃん、ありがとう
あの時、メッキ板を選んでいたら
選ばされていたら
おそらく色は剥げて戻らず、もう二度と表には
出せなくなっていただろう。
拭けば、何度でも綺麗になる方を好きだと
言ってくれた
あの、夜のアーケード街の時間が
真鍮板の輝きと一緒に、また浮かび上がってきたよ。

おっちゃん

今も、元気かなぁ


2002/07/09