日本の夏はじめじめしててむしむししててぐずぐずしてて…。
重い。すごく重い。
シチリアと違って乾燥度合いが天と地だから、しかたがないといえばそうなのかもしれないと、ごろごろしながら盟は思う。
一番風通しのいい玄関先で、氷河がバテているわけもわかろうというものだ。
スイカがでてきたときだけ首をひねって俺も食う、とうめくその根性も、讃えがいがあるというもの。
「あちー…」
呟いてはみるものの、体にへばりつく熱気にかなうわけもない。
クーラーをつけようにも、昨日使いすぎだと節約家の瞬にリモコンを隠されてしまっては、それも無理だ。
もういいやこのまま眠ってしまおうと眼を閉じたら、ぴとん、と冷たい雫が頬に落ちて驚いて眼を開ける。
「暑さにやられるとは堕弱だな」
「起きて外いってきたらー?」
影になった人物を見定める。
むさ苦しい人間の体温を間近で感じて、盟はうえ、と、仰向けに首を仰け反らせた。
「うっせーよブラコン兄弟…オレは暑いんだ…」
「……」
音速シェイク。
「くらえ」
ぷしゃあ、と景気のいい音を立てて、一輝が手にしていたコーラの缶が爆発した。
呼吸の一環、ほとんど息を吐き出した状態でそれを受けた盟は、かなり派手にせき込んだ。
「兄さん!」
「なんだ?おまえも涼しくなりたいか?」
有無を言わさぬ兄の、その微笑まじりの言葉に、瞬はわずかに詰まった。
こうなるともう言うことなんて聞いてくれない。
「何すんだ一輝!お前兄貴を何だと思って…」
「たった一ヶ月だけ先に産まれただけで、実質同い年だ。しゃきっとしろよ、万年発情猫」
「うっわ心外!すっごい傷つく!ナニ万年発情猫て!」
「あーもーケンカすんなよ二人して!年上のくせに…瞬も止めろよ」
ばたばたと玄関の氷河を飛び越えて走ってきたは末の弟。けろんと笑いながら、手を振ってくる。
「盟!デスマスクくるってよ!」
「っ……師匠が?!何で?」
「日本から冥界に繋がってるルート、探しにくるんだって。よかったじゃん?」
明るいひまわりのように快活に笑う星矢に、極上の笑顔をもってして盟は答えた。
「最高だね。…久しぶりだ……」
懐かしい。前にあったのは、もう何ヶ月前のことだろう。
ふと過去に帰っていると、眼の片隅に何か赤いものが見えた。
無意識に顔をあげると、さっきの爆発でほぼ空になっているであろうコーラの缶と、割り箸の片方。
「…一輝、何ソレ」
「あ?…ああ、林檎飴」
「りんごあめ…?」
よく見れば瞬の手には、金魚が6匹も泳いでいる袋がある。
重たげに揺れるそれは、やけに涼しそうだった。誰が取ったのかは、聞かないほうがいいのだろう。
予想外の答えが来た時点で、逆立ちして走り回ってしまう。
「向こうの神社で縁日やってるんだよ」
たこやきの爪楊枝を口からはみ出させながら星矢がいう。
「夜に海から花火やるって言ってたから、俺行くけど。盟、せっかくだからデスマスクと行ってこれば?」
花火。
縁日。
祭事。
ああ、もし時間が空くなら。
「…沙織と交渉してこようかなぁ…」
何気なく組んだ指の先で、爆発したコーラの泡末が一つ、弾けて消える。


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