師匠と語ろう 〜その2〜


夜は、とても静かだった。
四つ目の宮に至った。

「巨蟹宮か」

盟はつぶやいた。

しかし、ここを司るべき守護者もまたいない。
銀河の輝きのように清らかに保たれるべき星殿は、
寂れた廃墟のように虚ろに沈んでいた。


盟は、薄暗い宮内に歩を進ませた。



片手に



吉野家の袋を下げて



「よっこらせっと…」



巨蟹宮の中央にどっかりと胡坐をかいて
ゴソゴソと袋から牛丼を取り出した。


「ん?

ああこれ、夕食です。

大盛り一丁と、玉子と、あと…ごぼうサラダっと
野菜も取らなきゃね☆
あとウーロン茶…

え?…ええ、出来たんですよ
「吉野家 聖域店」


…半年くらい前だって聞きました。

うん…なんかね、星矢がゴネたらしいですよ。
知ってます?ペガサスの…あ、知ってますか☆

ええ、で、沙織さん…アテナの一言
聖域に支店作っちゃったんです。吉野家。


なんか沙織さん、何気に星矢に甘いんだよな(ぼそ)


ま☆それで俺もこうやって、12宮で牛丼味わう事が
出来る訳です。(割り箸口でパキッ)

そんじゃ、頂かせてもらいます(ペコ)



え?


あれ、やるんですか?


だって…

わっ!分かりました分かりました!!


はい、申し訳ありませんでし(ペコ)

じゃ、師の教えにのっとりまして…」


盟は、胡坐を正座に変えて、箸を持ったまま
手と手を合わせて目を閉じると……















いただきマンモス








これで、いいですか?(はー)

じゃ、七味かけてと…


はい?


俺、紅ショウガ入れない派ですよ



え?…だって…



あれは、師匠が勝手に人の丼に入れてんですよ!

有無を言わさず、いきなり紅ショウガどばっ!!

そんな…了解も何も無いじゃないですか!

そりゃ…師匠のおごりでしたからね、
我慢して食ってました。はい。


でも俺の食い方はね

こー七味多めにかけてね
後は生卵パカッ!

そんでこーかき混ぜて…


ええ?


味変わるだろ…て…


肉見えないくらい紅ショウガかける方が
牛丼の原型留めてま
せん!


師匠と先輩のは
紅ショウガ丼でしょ?どう見ても。  ダンテも?


…まー、あん時は、俺も弟子の立場でしたし
おごってもらうこと自体は嬉しかったですよ、ええ。

師の教え守れ…って

紅ショウガは違うと思います。

でもね
もう自分の稼ぎで牛丼買える立場に
なりましたから、俺は俺の道を行きます。

青は藍より出でて藍より青し
牛丼は七味生玉子掛けです。


いや、アイオリアさん関係ありません…

冷めるから食います…(モグモグ)



ん?


あっ!そうそう!!(後ろポケットゴソゴソ)

給料出ました!これ明細です!

いやー、聖衣もらうもらわないで
こんなに変わるんですねぇ(感心)

あ、ちょっと見てて下さい。
俺食ってますから(ガツガツ)




ふぁい?(モグモグ)




あ…そうそうこれ、師匠に聞こうと思ってたんです

初めて見る?そうですか…ご存知ないですか

うーん、星矢や瞬ちゃんにも無いんですよね…



なんなんでしょうね

「封印手当」って    うわぁ



けっこーこの手当、金額でかいんですよね

基本給と大差ないですよ(モグモグ)

ん?これのお陰で…
ダンテ先輩より手取りいいんですか俺!?

へ〜、かなり嬉しいな☆

師匠は…あ、やっぱり俺よかずっと上でしたか…ははは

そうすると、俺の聖衣って

黄金未満白銀以上…って感じぃ?



え? でも…


聖衣手当は青銅と同じ?


やっぱ中途半端だなぁ(ガツガツ)


へぇ?現ナマ?



チッチッ



時代は変わったんですよ、師匠☆


今はね、銀行振り込みATMですよ!


ん?…ちゃんとキャッシュディスペンサー置いてますよ

白羊宮の脇と、図書館内と、闘技場から北に200m
あと教皇の間の前かな?も少し置いて欲しいんだよな


そうですよ、師匠が死んで政権変わってからです。


今度ね、コンビニも出来ますよ。24時間営業ですよ



…いや…



あの…



だったら



なんで




アテナ側に付かなかったんですか?



そんな、上司のグチとか言われても…
俺そんときはねー……



あっ



そうそうそう!!
言いたいこと思い出しましたよ


…ちょっとその前に牛丼平らげます
冷えるとまずいんで


(ガツガツ…)ふー


ごっそさー…ええ?


あれもやるんですか?!


はーい…わかりましたー

んじゃ正座して、はいはい












ごちそうサマンサ










        (溜息)









ええ、それでなんですが


師匠に聖衣取りに行けって言われて
俺、エトナの火口に行ったでしょ


ええ、先週見せたあの……

…その呼び名は止めて下さい(涙)


納豆じゃないです!!


だから、コー…………




…………





髪の毛座の聖衣を取りに行ったらね



ひどいですよ





エトナの火口の底にね










バカがいたんですよ








バカですよ、バカがいて




俺、メチャメチャ迷惑かかったんですから


師匠、ひどいですね
なんで教えてくれなかったんですか?


えー…


また上司のせいですか?

じゃ、その上司に伝えて下さいよ



俺、バカに乗り移られて



バカやっちゃったんですから



…ええ、色々と…


ん?


瞬ちゃん襲ったりとか
女聖闘士誘拐したり
人前でスッポンポンになったり
髪と目の色変わったり


だからじゃなくてね
バカが悪いんですよ!


しかも、俺は記憶スポーンと抜けてるのに
後でみんなで
チクチクいじめるの…


師匠
聖衣を取るための試練てこれ?
なんか違う気がするんですが?

……じゃあ、後で上司に聞いておいて下さい。


ん?


師匠の上司もおんなじ事やったの?


人前でスッポンポン
それに聖衣着用


へー、俺師匠の上司レベルへへへへ


って全然嬉しくありません



まあ、そう考えると


エトナの地下には変態がいた訳ですよ
しかも計画性ねー


ん?……そーゆー事言わないで下さいよ


だって、師匠悲しくならないですか?

ご自分が育てた可愛い愛弟子がですよ



「火山の底でバカ
 乗り移られ
変態になり
 授かった聖衣は
 
カラス納豆
 しかも
マッパで着用」


それが師匠の6年間の成果



他に言えますか?胸張って?


…強気…って


ここまで強く出ないと俺
師匠に飲まれるんですよ(ぐび)


(ぷは)…聖衣?


そりゃ、装着したときは嬉しかったですよ

…マッパじゃなくて、ちゃんと装着して

授与式やったときは、ちょっと目頭熱くなりましたよ


ん?

……いいえ…




居て欲しかったですよ、師匠に




……世辞じゃないです。目ェ見て下さい。


え?…紫…


……知ってますよ…だからぁ…



それとこれとは、話は別です


だって

俺らが修行地決めた方法はくじ引きですよ
そしたら、俺が五老峰引く事だって有り得たし
あいつがシチリア行くことだって…え?


噂をすればですか…分かりました。



そんじゃ☆

この手当の事聞いておきますね!!

え?助祭長にですよ、教皇代理

だって、今聖域に黄金いないんですよ

だから、給与の決定は白銀聖闘士の助祭長任せ

…そんな無駄な金の使い方しませんよ
師匠じゃあるまいし


ちゃーんと財形貯蓄入ってますよ〜ほら〜


宵越しの金は持たない…って

それは師の教えとは言わな…

ん?

…あー、また話途中なのに…

はい、また来週…来ますよ〜」


盟が天井にバイバイをしていると
矢張り、ドラゴン聖衣を纏った紫龍が登場した。



「ん?…おっ☆紫龍じゃねーかどしたの?」

「いや、教皇の間に呼ばれてな…盟は…また」

「ああ、夕飯食いながら星になった師匠と対話タイム、ははは」


盟は腰を上げて、紫龍の背を押すようにして
共に巨蟹宮を出た



ひでーんだぜー、俺の師匠。死んでもよ、俺に食事の
 挨拶はちゃんとしろってうるせーの」

「へぇ、人に対しては礼儀が厳しいんだな」

「おー、いまだに「いただきマンモス」言わせんだぜー…」

「はぁ?…な、なんだそのいただきマ…ンモス…って」

「だからよ、師匠の好きなな…」


                           フェードアウトで〜おわり〜