イオニア海、上空から −その2−

「---にしても驚いたぜ、盟!おまえが生きていたなんて」

と、6年ぶりの再開を果たした星矢と盟、そして瞬は、
シチリアのに向かうティルトローター機の中で、
厳しい修業を耐えて生きぬいて来た喜びと感慨に
耽っていた。

話も乗ってきて、お互いの修業地の思い出話になった。

「星矢はギリシャか、いいなー、聖闘士総本山か、
 カッコイイよな」
「何いってんだよ!!魔鈴さんてゆー女だてらに
 すんごい鬼コーチに毎日しごかれてさ、
 生きた心地がしなかったぜ」
「へ?星矢ちゃんの師匠は、だったの!」

盟は、すっとんきょうな声を上げた。

「あー、そーだよっ!!女コーチで悪いか?
 それでもな、俺はちゃーんと聖衣もらったんだぞ!」

ムキになる星矢に、盟は慌てて手を振った。

「そーじゃないそーじゃないって!オレはさ、むしろ
 お前の身を心配してんだよ」

「へ?」
「盟、どういうこと?」

盟は、少し声を潜めて、前のめりになって語り始めた。

「オレの師匠…これはむさくるしい男だったけどよ、
 その師匠から聞いたところによるとさ…」

「うん」

星矢と瞬もまた、盟と顔を付き合わせるように前のめりになる。

「聖闘士の指導員てな、男より女の方がある意味
 キツイんだとよ」

星矢が同意するようにコクコク頷く

「確かにさ、女聖闘士の方がきっつー!って感じだったよ、
 魔鈴さんは、何か事あるごとに「死ねば」が口癖だし。
 それにー、シャイナさんて、こー爪のするどーい鬼みた
 いな攻撃してくる人もいたしさ、ま、仮面外すとへへへ…
 なんでもない!(汗)
 な、瞬トコの女聖闘士、なんつったけ?」

「ジュネさん、カメレオン座」

「そうそう、あの人もこえーらしーな、ムーチを振り振り
 チイパッパ♪
らしーじゃねーか」

「ムチ?せっかく兄貴に代わって貰ったのに、そんな変
 なのに遭遇したわけ?」

盟の突っ込みに、星矢が横入りする。

「おお、しかも一輝のほーは、可愛い女の子とお花畑で
 鬼ごっこ
してたとか・・・」

「なんだよ!オレくじ引きで修行地交換したき、 ホント
 弟ひいきなやつだなーって、ちょっと瞬ちゃんうらやまし
 かったんだぜ!… お花畑で鬼ごっこって、
 それどんな修業なんだ?

泡食ったように瞬が早口でフォローした。

「そういう事が、一度だけあったんだって、別に修業じゃ
 ないよ!ちなみに、兄さんの師匠は男性でした」

「で、瞬ちゃんはチィパッハお姉さんにムチ振り振り
 されてたの?それもどんな修業なんだ?」

そういう名前じゃなくてジュネさん!兄弟弟子だよ!
 それと僕の師匠も男性!」

どうも、盟&星矢だと、瞬のテンションも上がるらしい。

「盟、チィパッパは置くとしてさ、確かに女聖闘士も
 こえーよな。ヒステリックな迫力があるもん」

「ああ、それとよ…これ師匠に聞いたんだけどさ、
 星矢、ここだけの話お前にちょっと聞きたい」

「な、なんだよ…額突っつき合わせるくらい近く寄るなよ」

三人とも、デコ付き合わせる勢いで顔を付き合わせ、
まるで秘密の談義のように盟が小声で語り始めた。

「師匠が言うにはさ、女ってぇのは聖闘士だから気性が荒い上
 手加減を知らないって」

「うんうん」←二人同時

「でよ、男の痛みも分からないから、平気に・・・・」

「うん」




「玉とか、蹴るらしいぜ」





   ・・・・ぶーん・・・・(エンジン音でち)





玉蹴りって、それサッカー?」

星矢が天然ボケで返す隣で、瞬が顔を赤くて背けた。

「バカ違うよ……瞬ちゃんは分かったみたいだね、その分だと」

「ああ!ってぴーっのことかぁ?」

「星矢ぁっ!!

瞬が真っ赤になって叫ぶ。
と、機内のスピーカから

「ただいま、放送中不適当な発言がありました。この場を持って
 お詫びいたします」

と、無機質な声が流れた。

「助祭長、フォローサンキュー☆」

盟はスピーカーに礼を言うと、星矢に真っ直ぐ向き直った。

「うん、それでさ、聖闘士どころが男やめたって奴も
 いるんだって。で、星矢……お前、大丈夫だったのかなって、
 オレ心配したの…」

じーっと、星矢を見つめる盟。
瞬もまた、不安そうに星矢を見る。

「星矢、君まさか……」
「どうだ?」

   ジーッ

魔鈴さんはそんなことしない
 だだだ、大丈夫です!オレはちゃんと男の子続けてます!」

盟と瞬が、ふーっと息をつき、盟がぽつりと漏らした

「…なーんだ…」

「こら盟っ!!おまえ何期待してたんだ?」

「オレの師匠の話がホントかってことだよ」

「おめー、良い教育受けてないなっ!」 だってあの師匠だよ

顔真っ赤にして叫んだあと、星矢は何かはっと気が
ついたように顔を上げた。

「でも、シャイナさん辺りはやったかもしんねーな
 ……カシオス生きてたら、聞きたかったなー……」おい・・・

盟は、ふっと瞬を見た。

「瞬ちゃんは、大丈夫だったの?指導員じゃなくて修行仲間
 だったとはいえ、女聖闘士はコワイよ。ましてや
 ムチ振り振りチイパッパ姉さんだったんだろ?」

「俺もそれ聞きたい!、瞬、おまえやけに女っぽいけどさ
 チィパッパさんに何もされなかったか?」

ありません!それと名前は
 ジュネさん!!

瞬は、顔を真っ赤っ赤にして、大音響で反撃した。

「うおっ!瞬ちゃんけっこー声でけぇな…」

盟が、耳を塞いで顔をしかめた。

「瞬、やけにムキになってねーか?なんかチィ……
 ジュネさんかばってるみたいだぞ?」

星矢の突っ込みに、瞬は口篭るように息を飲んだ。

「おんや、瞬ちゃんどしたの?……ホントに何も無かったの?
 それだけ顔あけーって事は、何かあったかなって思うよ?」

次は、星矢と盟が、瞬をじーっと見て問い正し始めた。
このテの話にはノリたがる星矢が先陣を切った。

「そいやお前、十二宮戦いの前に集合したとき、身体中に
 ムチの跡みたいなの付けてたな?」

         ぎく

真っ赤だった瞬の顔は、一気に青くなった。

「瞬ちゃん、反応が分かりやすいねぇ…ホント
 聖闘士になっても変わんねーなー」

「どうなんだよ、瞬、この場ですっきり吐いちまえよ」

「い、いや…なにも…」

二人に詰め寄られて瞬は背を付いて首をブルブルする。
そんな瞬の反応に思わず図に乗った二人は、
芸能人レポーターの如くズイズイ詰め寄る。

「瞬ちゃん、この際すっきりはっきりくっきりしよーよ」

「あんな閉鎖されたアンドロメダ島で出会って、ハーレクイン
 ロマンスの一つ二つ三つ、無かったか?」

「しかも、ムーチをふりふり」

「チッイパッパ♪」

「チーチーパッパ」

「チーパッパ!」←二人で

その時

「シチリア上空ですっ!!」

とスピーカーからの冷酷なアナウンスと同時に
また、盟と星矢の床下がパカッ!!

「うわーっ!!」



   ……どぼーん……



瞬が、安堵したようにふーっと息を付いていると
またスピーカーから声が届いた。

「ああ、瞬くん」

「はい」

「そこの、金ダライ二個も、落としてくれないか?」

瞬は、巨大な金ダライを手に取って、ぽつりと返した。


「吉本オチですね」

    
                            おわり












思ったけど、続ける。


どっ!ぼーん!!


と、という巨大な水音と共に、イオニア海に
でっかい水柱が二本立った。

水柱の主である星矢と盟は、暫くしてやっと海面から
顔をだす。

ぷはーっ!!
 助祭長って、マジ瞬ちゃんひいきしすぎーっ!!」

「ホント、自分の都合でしか物考ねーよなっ!」

そのとき、頭上からひゅーっと落下音が届いてきた

「ん?」
「なに?」

  ガーン!!
  ゴンッ!



星矢は、後頭部で
盟は、顔面で

巨大金ダライを受け止めて、しばし固まった

後頭部に金ダライ乗せたまま、星矢が声を震わせた。

「これは、ニコルさんじゃ、ねーなー…」
「瞬ちゃん、やっぱ修行で性格変わったか」

盟は、鼻血をタラリとさせてぼやいた。


  ドッパーン!!


また、星矢と盟の間で巨大な水柱が上がった。

「うわっ!何だよ今度はっ!!瞬か?」

と星矢が顔を上げると、そこには……

竹竿が、二本浮いていた。

盟が、一本を手に取る。

「あのさ、もしかしたら、この、竹竿と」

「この…金ダライで…」

「上陸、しろって……」


「か?」








ザバッ!ザバッ!ザバッ!



律儀にも


星矢と盟は、タライを船に
竹竿をオールに

懸命に漕いで漕いで漕いでいました。 はードンブラコ。


「おい盟よぉ!!
 一つ聞いていいかぁ?」


星矢が、ヤケクソになって叫んだ。

「なんだぁ?」

「オメーの修行地ってよぉ!
 シチリアなんかじゃなくて
 実は
佐渡島じゃねーのかっ!?」

「うっせぇ!!」


ババババババ......


八つ当たりモードになっている二人の背後から
何かモーター音が響いてくる。


バババ
ザザーッ!
ザパーン!!

「どわーっ!」

突如押し寄せた大波に、星矢&盟のタライ船は見事に
転覆かました。

ごめーん!先に行ってるよーっ!

頭に金タライを被った星矢と
竹竿に捕まっている盟は

ただ、水上バイクで颯爽と駆け抜けて行く
瞬の背中を、見送っていた。

「…てゆーか、マジひいきされすぎ…」

「あいつ……いつライセンス取ったんだ?」

   
                おわーりー