イオニア海、上空から −その1−


「---にしても驚いたぜ、盟!おまえが生きていたなんて」

と、6年ぶりの再開を果たした星矢と盟、そして瞬は、
シチリアのに向かうティルトローター機の中で、
厳しい修業を耐えて生きぬいて来た喜びと感慨に
耽っていた。

話も乗ってきて、お互いの修業地の思い出話になった。

「星矢はギリシャか、いいなー、聖闘士総本山か、
 カッコイイよな」

「何いってんだよ!!魔鈴さんてゆーすんごい鬼コーチに
 毎日しごかれてさ、生きた心地がしなかったぜ。
 それより盟、おまえシチリアって言ったらイタリアだろ?
 いいよなー、食いモンよかったんだろ?」

「オレは食い歩きしに行った訳じゃありません
 こっちだって大変だったぜ、変な師匠にしごかれてよ」

「変?てどういうこと?」

聞き役に徹していた瞬が尋ねた。

「うーん、何から話したらいいかなー」
 修業そのものが変だった……としかいえねーな」

「どんなんだ?」

星矢も、身を乗り出して尋ねた。

「だあな、まずよ、おまえたち二人、
 師匠のこと何て呼んでた?」

「魔鈴さん」
「ダイダロス先生。盟は?」
殿

「は?」

星矢も瞬も、同じ表情で同じ声を上げた。

「何だよ「殿」って?」

「しらねー、そう呼べって言われた」

「殿……それでどういう修業だったの?」

「おお、ちなみにお二人、修業は師匠とマンツーマン?
 それとも団体?」

「俺は、魔鈴さんとマンツーマン。365日ずっと」
「僕は、何人か弟子がいて、日替わり交代でマンツーマン
 それで盟は?」

「十把一からげの団体戦

「はい?」
また星矢&瞬がはもる。

「団体戦?」
「それは、師匠一人が複数の弟子を同時に相手にすること?」

「瞬ちゃんの予想も近いけどな、ちょっと違う」

盟の、修業話が幕を開けた。

「俺んとこよ、弟子が常時20−30人くらいいたんだ」

「師匠一人にか?そりゃ結構な大所帯だな!」

「それだけの弟子を抱えられるっていうことは、とても
 器の広い、人望のある人だったんだね」

「………」

瞬の、期待溢れる問いに対し、盟は思いっきり眉間に
縦皺を寄せて、顔の前で手を横に振った。

「…そんなんじゃねー、要はウチの師匠、弟子使って
 遊んでたんだよ、今思い返すとな…」

とおーい目をする盟とは裏腹に、星矢&瞬は後頭部に
でっかい冷や汗マークを付けて、暫し固まっていた。

「俺の修業地のメインはさ、も少しで見えてくっけど
 エトナ山っていう、でっかい火山でよ。
 しょっちゅー爆発すんの、いっつも煙上がってんの」

「そこで、どんな団体戦だったんだ?」

「まずは
 トゲトゲの谷底這い上がり
 そんで回る丸太渡ったり
 ターザンみたいに縄使って源泉沸騰している
 池飛び越えたりよ
 地震のときは10枚重ねた座布団に
 バランス崩さずにいつまで座ってられっかとかさ、
 ゴールは、師匠っつーか、殿のいるエトナ山山頂。
 一個でもミスしたら、そこで失格
 すなわち死んじまうわけ」

「それを・・・20−30人でやる訳なんだね」

呆然としながら、瞬が応えた。

「そそ、そんで師匠はさ、白銀聖闘士で俺の先輩の
 ダンテさんて人と、肉焼いてんだよ、バーベキュー。
 そんで笑ってオレら眺めてんの」

「はあ?」(二人一緒に)

「そんでまー最終ステージまで生き残ったら
 殿のチームと撃ち合い。
 殿の持ってる的に拳当てたら、それでクリアー
 バーベキューに混ぜてもらえるわけ。
 ・・・その繰り返し」

星矢が手を上げて質問に入った

「あのよ盟、ちょっと聞きたいんだ」

「ん?」

「もしかしたら、最終ステージまで弟子が生き残るだろ?
 そしたら、先輩が「殿、今日は○人生き残りました」って
 報告すんのか」

「そうそう!で、殿が「ばかやろー、多いじゃないか」っ
 つって、先輩叩くの」

「・・・やっぱり・・・」

始終を聞いていた瞬が、ヒクヒクとした笑みで一言

「それ確か「風雲!たけし城」……だよね?」

「そぉなんだよ!!」

しばらくの間。
ティルトローター機内は、エンジン音だけが
虚しく響いていた。

沈黙に耐えられ無くなった星矢が口を開く。

「あのさ、自分の事「殿」って呼べって言ってんならさ」

「うん」

「弟子にも、なんか変な芸名とかつけてねぇか?」

ご名答☆先輩なんかさ「そのまんまダンテ」って
 付けられてたよ」

「それ凄くイヤだな」

「僕、ダイダロス先生が師匠でよかった……(ぼそ)」

「ちなみに俺はさ、聖衣もらったらさ
 「ラッシャー盟」って付けられる予定だったんだぁ」

「雑兵で良かったんじゃないか?それなら」

「どっちもどっちだなー…こうなるとよ」

盟は複雑な面持ちで俯き、自分の足元を見た。

「この、足の下にあるイオニア海でも修行させられたなぁ」
「お☆コバルトブルーの海でダイビングか、優雅じゃん」

星矢の突っ込みに、盟は居直った答えを返した。

「おー、そうだよ。イオニア海で海水浴とランチだったよ」

瞬が、語彙を察してひきった笑みを崩さず聞いた。

「ただの、海水浴と、ただの、ランチじゃ、ないよね?」

「ああ、まずはな、弟子クルーザーに乗せて沖10キロ
 位まで出るんだよ」

「クルーザーの免許は誰が持ってたんだ?」

「死んだオレの師匠」

「まあ、この機体動かしているのも聖闘士だからね;^^」

「やっぱ優雅じゃねーか?」

「ああ、そりゃ俺含め弟子たち喜んだよ。んでも、沖で停泊
 したとたんによ、海に飛び込めって言われた。んで、食う
 もん捕まえてさ、指定の海岸まで来いとよ」

星矢は、呆れたように背を反らして息をついた。

「なーんだ、たかが10キロだろ?聖闘士の修行ならそんく
 らい朝メシ…この場合昼メシ前か?」

「片足ずつ、5キロの重り付けられんだよ!!
 両足で10キロ



  シーン



また、エンジン音だけがしばらーく響き渡った。

「そ、そんで盟…お前それクリアー出来たわけ?」

「出来たからここにいるんじゃねーか!

「それも、そうだね;^▽^」

「まあ、ただ泳ぐ分にはなんとかなったけど、問題は
 食料だわな。それで魚追っかけて脱落した奴
 何人もいる。反対に魚やサメの餌だよ」

「はい・・・」
←二人同時

「オレ、とにかく岸に近づく事だけ考えた。
 浅瀬で貝でも捕まえよっかなと思ってさ。
 最悪海草でも食えりゃいいかなっておもってな」

「おまえ、昔っからそゆとこ変に計算高いよな」

「海産物に詳しい、日本人ならではの強みだね。外人は
 あんまり貝とか海草食べないもの・・・」

「おお、んで浅瀬に近づくとよ、師匠がさ
 魚焼いて待ってんだよ。もちろん自分の分だけな」

「おまえの師匠、なんか焼くの好きだね!」

「そう言われればな。でオレ浅瀬で岩場の方に行ったんだ
 そんでよ、そこでよ・・・ラッキーな事に」

「うん」

ウニがいたんだよ、ウニが!いーっぱい」

「……それ、いいな」
「僕も、ちょっとうらやましい」

「おお、ウニ高いだろ?食ったことねーから、シャツ脱いで
 夢中で収集したよウニ。で、ヨロヨロになって師匠のいる
 浜に行って、ウニ広げた」

「で、独り占めで食ったのか?」

「最初はその腹積もりだったさ、現に、生き残った弟子たちは
 よ「それは食い物なのか?」ってイヤーな目で見てるしさ」

瞬が、慎重な面持ちになった。

「ウニって、日本人しか食べないのかな?」

「どうもそうみたいだと思ってたけど、師匠と先輩は違った」

「どしたの?」

「師匠と先輩、自分達の焼けた魚、かなりデカイやつ一本ずつ
 出してきて、オレのウニ一個と交換しろって、言われた。
 後で聞いたんだけど、ウニ食うのって日本人とシチリア人
 くらいらしい」

「へー」

「でよ、大きさのバランス悪いから、ウニ2個と魚一匹交換
 したよ。食い物の話では、あれが一番の思い出」

瞬が、ちょっとじわっとする

「なんだか、良い話だよ…」
「ああ、確かに変な修行だけど、面白いな。
 悪い意味じゃなくてさ」

「うん・・・ただ、オレそこでちょっと失言しちまってよ」

「?」

「もう10キロ泳いでヘロヘロだろ?で師匠に焼き魚
 出された時、気ィ緩んじまってなぁ・・・」

「どしたん?」

「意識モーローとしてたからよ、つい思わず
 「醤油下さい」って訴えちゃった」



    ・・・ブーン・・・ (注:エンジン音)



「そしたら、どうなったの?;^▽^」

寝言は飯食ってから言え〜っ!って、
 また海に放りだされちまったよ」

「あ、でもよ!醤油欲しいってよーく分かるぜ!」

「お、星矢ちゃんも?」

「ああ!流石に魔鈴さんにゃ口走らなかったけど
 野山の獣とか捕って焼くだろ、そこにジューっ
 て、醤油かけてぇなって、何度思ったことか・・・」

そそそそそ!!俺もさ、焼きたての魚にゃ、
 オリーブオイルじゃなくて、醤油とーっ」

「大根おろし!」

「わ、星矢と盟がはもった・・・」

「そーだよなー、ギリシャ修行時代、ショーユがありゃさ
 もっと耐えられて小宇宙も滾ったぜ」

醤油は小宇宙の源だよな」

「・・・・;^-^」←瞬ちゃん絶句

星矢は、機内のスピーカーに向かって叫んだ。

「つー訳でニコルさんよぉ!
 聖域に、醤油常備してくんねぇ
 かな?福利厚生の一つとしてさ」

「助祭長〜っ!シチリアにもよろしくーっ!!」

「醤油・醤油・醤油!←星矢と盟のハーモニー

突如、星矢と盟の醤油コールを断ち切るように、
スピーカーから

「そろそろシチリア上空だっ!」

とニコルの声が響くと同時に、何故か星矢と盟の
座っていた座席の床がパカッと開いた。

「うわああぁぁぁー!!」

あっという間に、星矢&盟の姿は
夜のイオニア海へとフェードアウトした。

「・・・・」

開いた床から、冷や汗を流して海を見下ろしていた
瞬は、スピーカーにおどおどと聞く。

「あの、僕も降りるべき……ですよね?」

「ああ、そこのパラシュート使っていいよ」



「はい」




                    おわり−(長くてゴメン)