4.

 瞬はこのとき、寝てた(いや、気を失っていたと言い
なさい)みたいです。
 まあ、ここまできて彼に騒がれても困るわな。さすがに
バカ神がすぐ横にいるこの状況で涙の兄弟愛劇場開幕と
いうわけにも行くまいし。テュポンはバカだからラドン
さんみたいに親切に待っててはくれないだろう。

 そして釘付けにされたエキドナを見て、割とあっさり
瞬を忘れたっぽい盟も結構いい根性していると思う。
 いや、大丈夫大丈夫、瞬ちゃんは見た目こそ可憐だ
けれど、中身はなんたってあの兄さんの弟だから。
おまけに某冥界の王に見出されたほどの人材である。
放っておいても平気ですって。

 
 ・・・・・エキドナの設定は元祖ギリシア神話とは
だいぶ違っているようだ。
 て言うか何なんだ「吾の真の肉体」って。
 それって・・・要するに、クローン? 神話の時代に
そんなもん作ってたの?! さりげなくすごくないか
テュポン!
 ちょっと感動したので、「バカ神」に加えて「ドリー」
という二つ名を献上しよう。何か可愛いぞ。


 <滞る時の監獄>を前にした盟とテュポンの会話・・・
いや、会話じゃないなあこれも。成立してないもん
なあ・・・。
 いや、やはり<歴史にさえ残す価値のない戦い>に
言葉は要らないのである。

 しかし・・・仮にも「神」を相手に、盟はまともに
戦っている。
 聖衣に操られているような技の印象はぬぐえないのだが、
それにしたってこれはすごい。だって、これって原作じ
ゃ影は薄くたって主人公・星矢の特権だったのに・・・!!

 しみじみと、破格だよねえこの扱い。すごいぜ盟。


 そして。引用行きます。

「此度は、星なき星座と、その汚れた聖衣に灼き込めら
れた血の記憶───古のあのアテナの傀儡か」
「傀儡ではない」
「吾は“畏れ”で導く」
「縛るだけだ」
「アテナは“愛”で縛る」
「導くのだ」
「戦士は戦う」
「オレは戦う」
「星に選ばれた神の戦士は、戦い、のたれ死んで<神々の
意志>に殉じる」
「星に殉じる」
「いったい吾とアテナとは、なにが違う。盟よ───吾の
傀儡よ。なぜ吾に殉ぜぬ。せめて食われぬ」
               (181ページ)


 はい!! 何も違わないと思いますっ!!(爆)
 「愛」も「畏れ」も聞こえよく言い換えているだけと
しか思えませーん!! 「導く」も「縛る」も、殉じる
相手が何であっても、実態は全く同じでーす!!
 盟ちゃん、冷静になりなさい。客観的に見て、テュポン
の言ってることの方が正しいから。言ってくれるでは
ないかバカのくせに。

 テュポンとアテナの違う点といえば、せいぜいアテナは
その食うとかいう発言をしないくらいではないのか? 
でも、その代わりにお馬さんにされるんだよ。どっち
がイヤ?
 口に出して要求はしなくても、十分殉じさせまくってる
んだし。というか、そうしなければならない状況を彼女
本人が作りまくってるんだし、なあアテナ様?
 どんなにきれいごと並べたって、所詮神様なんてこんな
もんだよなーと思いつつ、この微妙な会話(会話か・・・?)
にはもう何も言わないことにします。繰り返しますが
シリアスなシーンなんです。ほんとにもう。


 この後、ちょっとグロなシーンが展開する。あ、脚・・・
痛そう・・・・(涙)

 ・・・・だが。

 ここに、城戸さんの息子さんの名に恥じぬ盟の恐るべき
生命力が披露される。
 ・・・確かに、このご兄弟の中には、宇宙の塵になって
も復活してくる某不死鳥君を筆頭に、四回ほど死んじゃあ
生き返った奴だの絶対零度に耐えた奴だの心臓まともに
刺されて生きてた奴だの、人間離れした人材が豊富に
含まれている。やっぱりクマムシの血が入ってるような
気がするぞ光政。

 だがしかし・・・・死んでも意地と根性と小宇宙で
使命を果たすために動いてた奴は前代未聞である。
て言うかめちゃくちゃだろ。

 うーん。生命力の問題ではないような気がしてきた。
 叫びましたよ、ありなの、これは?! 一輝以上の
反則だぞ、盟!! すごすぎるわ浜崎先生・・・!!


 だが、テュポンよ。憶えておくがいい。
 お前さんは「人間は血の三分の一を失えば死ぬ」と
言った。
 確かに普通の人間はそうなのだが、その盟の弟である
紫龍は、体内の血の二分の一を搾り取られても元気に
復活してきて戦っていたのだ。
 まともな人間のやることではない。そして盟は彼と同じ
血を半分受け継いでいるのだ。普通の人間のつもりで相手
してると痛い目に遭うんだぞー。

 人間は、脆く弱く儚いものであるが故に、神には決して
出来ないことを成し遂げてしまう存在なのだと思う。
 だが、それにしたって節操がないのがこのご兄弟の特徴
なのである。しつこいが、間違いなくY染色体に染み
ついた遺伝子だ。


 そして───時は破れる。



  5.

 さて、一気にラストに向かって突き進みますぞ。

 何度も書いた気がするけど、ここのエキドナ(註2)の
設定って可哀想・・・。て言うか、グロいぞ。趣味悪いぞ
テュポン!!

 しかし、生まれるのはまあいいとして、母親の腹を引き
裂いて生まれてくる子どもって・・・イヤすぎ。
 勘弁してくれ。私はスプラッタは駄目なんだ・・・! 
いやっ、気持ち悪いわー!!
 しかも、頭がないですと・・・? 体がクリスタルより
も透明な貴石そのものですと・・・・? お前一体、
何がしたいんだテュポン・・・・。
 しみじみと、びっくり箱みたいなキャラだこと。
  

 だがしかし、真のびっくり箱はこの直後に登場する。

 ・・・・引用行きます。


 突如、祭壇は炎に包まれた。
「…………ッ」
 テュポンは動きをとめた。
 自神以外、高原のない闇に閉ざされた地下神殿で、
テュポンは、祭壇を焼く炎に照らされていた。
 その<意志>は、逆に凍りついた。
 眼前で、神のなすすべもなくエキドナの雌型は炎に
焼かれていく。
 業火に。
 女の長い髪はちりちりと燃え上がり、肌は沸騰し、肺に
吸い込まれた熱気が内から肉体を焦がし、崩し去っていく。
“鳳翼天翔”
 それらすべてを、炎のはばたきが灰にして奪い去った。
                (187ページ)



 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

 さあっ! 皆さん、どうぞご一緒に!!

「何じゃそりゃ───ッ?!!」


 ほう・・・鳳翼天翔って・・・・。ここまで唐突に
それが来ますか?! 私は素で頭を抱えましたね。お前、
どこから湧いて出たんだ、一輝・・・!! つか本気で
身も蓋も情け容赦もねえなおい!!

 ツッコめ! ツッコんでやれ、盟!! ここで
「やっぱり来てくれたんだね」なんて言ってくれる弟は
現在意識不明なのだから、君が何らかのリアクションを
取らなければテュポンが可哀想すぎるだろう!! 
普通に「一輝……か」ですませる奴があるか!!

 ・・・で、彼の額の古傷の理由を、なんで盟が知って
るんだ? エスメラルダの話を知ってるのは多分富士の
地底に行った4人だけだと思っていたのだが・・・誰
か教えたのか? いつの間に?

 あまりに唐突な登場にテュポンより読者を呆然とさせ
つつ、ここの盟と一輝の会話はものすごーく深くて胸を
突くものである。しみじみと、心の奥底に染み入るものに
なっていると思う。僅かな言葉のやりとりの間にあらゆる
想いを詰め込んでいるようで、実は大好きだ。

 なので引用。長いです。


「盟か」
「ああ」
「幼いころの面影はある。しかし盟よ……なぜだ。お前の
小宇宙が感じられん」
 片足で立った盟を、一輝は見定めた。
「小宇宙は血をめぐるという」
 盟は、ひとり語りをはじめた。
 ───オレは血の絆さえ失ってしまった。
 テュポンを見た。
 真の肉体を眼前で焼かれた哀れな神は、わなないている。
「せめて星は忘れない」
 盟は、一輝にほほえんだ。
 とうに笑顔を忘れた、修羅にほほえんでみせた。
  (中略)
「……なにも訊かないのか?」
「既に死したお前が、笑った。───そんな男に、なにを
問えと」
「一輝よ……オレは既に、血の絆さえ失ってしまったかも
しれないが、それでも、これはお前にしか託せない」
「盟」
「弟たちを、頼む」
          (189〜190ページ)


 じーん・・・・・。いや、じーんじゃなくていい。
泣け! 思いっきり泣け!!

 この間、ついにぷっつん切れたバカが暴れ始めていたり
するのだが、もはやそんなことはどうでもいい。つーか
お前邪魔だからすっこんでろ。
 泣ける・・・泣けるわ、盟・・・! そして、決して
涙を見せず、何も問わずに去る一輝!! あんたら、漢
や・・・・!!

 盟とご兄弟の兄弟愛劇場の中で、このシーンが一番泣け
ました。ここまでの経緯を全然知らなさそうな一輝が、
ただこれだけで全てを理解してくれるなんて・・

 このふたりって、子どもの頃仲良かったのだろうか?
 思えばどちらも兄属性、性格は全然違うが気は合った
のかもしれない。
 一輝が行方不明と聞いた盟が「団体行動の取れない奴
」だけで流して心配している様子すらなかった(普通、
人ひとり行方不明となったらもうちょっと心配するだろ。
ましてやこのときの盟は一輝がグレた経緯を全く知らない
のでは?)のも、全く疑わず絶対無事でいると信じられる
信頼の故かも。いいなあ。

 会話が成立していないギガスたちとは違い、言葉など
必要としない彼らの関係が胸に迫るではありませんか。
 何も聞かなくとも一番大切なものが通じ合う、これこそ
が絆。一輝は父親のことは決して認めないかもしれない
けど、兄弟は認めてるし。血の絆は、失われていないと
思う。ほんとに。


 ・・・・ちなみに、この作品における一輝の登場シーン
は、この部分、ページ数にして僅か4ページ。台詞は全部で
5行。最初の“鳳翼天翔”を台詞に数えても6行。
 原作でも彼は最初からいたことがないが、それにしても
最短記録である。
 これだけの登場でこのインパクト。いきなり飛び込んで
きて全てを焼き尽くしてかっさらっていったその行動は、
すごいとしかいいようがない。さすがは原作一の反則男、
畏るべし・・・!!

 それにしても、兄さんは一体どうしてここへ来たんだ。
アテナの要請で動くとは思えないから、やっぱり瞬の
危機を察知したからか。その場合事情が全く分からない
と思うんだが、その辺は良いのか。いや、もうそういう
ことを問うのは野暮なのか。やはり、畏るべし、一輝・・・

 それとあとどうしても気になるのだが。このとき一輝は
瞬を「抱き上げた」と書かれているのだが・・・これ、
やっぱり例の「お姫様抱っこ」なのだろうか。
 ・・・・・ははは。(註3)



 そして。

 嵐の巨神は狂奔する。
 けれども盟の世界は、とても静かになった。
「ようやく、星の、声が聞こえる」
            (191ページ)


 ・・・・・・(号泣)

 こんな綺麗な死にシーン、ありなんだろうか・・・。
 本気で泣ける。ここはほんと、何度読み返しても涙涙
ですわ。
 泣けるので、これ以上は書きません。



 <終 Deus ex mackina>(註4)
 
 ・・・・兄さんはちゃんと瞬以外の弟も助けてくれた
らしい。見捨ててたらどうしようかと思ったよ。でも、
やっぱりそのまま行方不明になっちゃうのね・・・。
 多分彼は盟にどう評されていたのか知らないと思うが、
あの言葉が正しかったことを図らずも証明している行動で
あった。


            ※


 オデイオン。再び『オレステイア』を観に来ている
のは、瞬と星矢。
 会話からして間違いなく誘ったのは瞬。星矢はニコル
さんがかつて言っていた通り、ぐっすり寝ていた
らしい・・・。君は何てお約束な・・・

 こういうときに、しかもあんなろくでもない因縁の
ある演目をまた観に来るということは、瞬ちゃんは相当の
演劇好きなのだろうか?


 ちなみに、『オレステイア』では、最後の裁判シーンで
いきなりオレステスの弁護に現れるアポロンがいわゆる
「デウス・エクス・マキナ」の役回りであると思われる。
それか、裁判長のアテナ? どっちかしら。
 ちゃんとした筋を知らないので断言は出来ないが。


              ※


 ・・・・・・髪の毛座の聖衣って、本気で一体どういう
構造になってるんだ。鎧の状態からするするほどけて
いって全てが糸状にって・・・わからん・・・神秘じゃ
のう。

 そして、この期に及んで未だにまともに成立していない
盟とテュポンの会話。


「またたくほどの一瞬だ。この大地と冥界の狭間の監獄で。
永劫の一刹那をともに落ち続けよう」

 (略)

「星は忘れない」それは願いだった。「地上の平和が、
聖闘士の生きた証であればいい」
「なぜ抗う」
「うるせぇ」

 (略)

「だから、これは<ギガントマキア>」
「そうであったか」
「こんなものは……“歴史にさえ残す意義のない戦い”だ」
「ならば……またたくほどの一瞬、まどろむことにしよう」
          (198ページ〜199ページ)



 かくして、小さな人の想いを星々の中に返し、少年は
神の封印としてその時を止める。


 ・・・ちょっとかっこよすぎるぞ、盟。泣けるから
いいけどな。「うるせぇ」の辺りに蟹風味が感じられて
さらにいいぞ。

 そして何故これで納得する、テュポン・・・。分からん。
神様の考えることは解りません。特にこやつは、最後
まで理解できなかったわ・・・。

 とりあえず・・・ご冥福をお祈りします。はい。


             ※


 アテナは当然、盟の・・・というかコーマの宿命を
知っていたんだろうなあ。
 それでも全てを受け入れるのが彼女の宿命ならば、
「神」の星のもとに生まれた者こそ何よりも重いものを
背負う者なのだろうとは思う。
 問題は、そーいう立場の方々はどいつもこいつも性格の
方がぶっとんでて、そのような悲愴さを全く感じさせて
くださらないという点でありますな。

 で。


「演じましょう、アテナの<意志を>」
            (200ページ)



 テュポンが「デウス・エクス・マキナ」ならば、
アテナもまたそうなのかな・・・。
 それにしても、あの沙織さんがこんなにまで深い覚悟を
身に付けるようになられたとは、ほんと感動的だな。
て言うかやっぱり限りなく別人だと思う!!

 ・・・・最後の最後にこんなくだらないこと言ってすみません。



 ───以上。
 愛と涙と笑いとツッコミとムダ知識で展開した(大嘘)
『ギガントマキア☆ツッコミレビュー』、これにて閉幕で
ございます。

 長らくお付き合いいただきまして、ありがとうございました!!



  (註1)クマムシ

 節足動物門に近い、緩歩動物門に属する動物の総称。
 その中のクマムシ属(Macrobious)に属するものを
特に指して言う場合も。

 分布は全世界に及び、生息環境も陸上、淡水、海水と
多様で、身近なコケの中などでも普通に見つかるらしい。
あ、言い忘れいたが体長1mm以下の微生物である。
ちなみに見た目、ちょっと王蟲に似ている。
 日本にも30種ほどが分布している・・・が、重要
なのはそういうことではないと思うこの場合。

 クマムシは、体内の水分を極端に減らしてクリプト
ピオシスと呼ばれる一種の仮死状態になると、信じがたい、
不死身に近いと言っても良いほどの耐性を持つのである。
特に陸生のものは凄まじいらしい。

 乾燥状態になっているのでまず乾燥には当然強い。
百年以上前の乾燥したコケに水を与えると、中から出て
きて活動を始めたという話もある。老師もびっくりだ。
 さらに、数百度の高温や絶対零度に近い低温にも耐え、
真空状態でも短時間なら平気であり、放射線に対する
耐性すら持つという。一輝や氷河でも倒せないのだ!
すごいぞ微生物!!

 思わず差し向かいになってしみじみと「何なんだお前」
と問いただしたくなるクマムシ。まさに超生物、聖闘士
でも半端な奴では勝ち目はなかろう。やはり青銅一軍
レベルでなければ太刀打ちできないのでは? まあ、
クマムシは人間どものような愚かしい戦いなんぞ、見向きも
しないだろうが・・・。


  (註2)エキドナ

 ポルキュスとケトの子。神話ではギガスとは関係ない
女性である。
 彼女の両親はガイアとポントス(海洋)との間に
生まれた子どもたち(実の兄妹である)だから、テュポン
から見ると・・・姪? うわあ・・・。
 いや、まあ、ギリシアの神々は兄妹・姉弟婚もOK
だから問題はないはず。ゼウスとヘラは姉弟だ。ハーデス
とペルセフォネは伯父姪だ。そもそもガイアとウラヌスや
ポントスは母子だし。

 ・・・ちなみに、彼女の姉妹で一番有名なのは、あの
メドゥーサを始めとするゴルゴン三姉妹であろう。うーん、
すごい家系・・・
 ゴルゴン姉妹は体に蛇が巻き付いているが、エキドナは
上半身は妖艶な美女、下半身は大蛇という姿であった。

 テュポンとの間に大勢子どもを造り、神話では彼の
死後実子であるオルトロスとの間にも子どもを産んで
いる彼女だが、下半身が蛇というその体の構造を考える
と、どのようにして妊娠・出産及びそれに先立つ子作り
行為を行ったのか、非常に謎である。
 テュポンも下半身蛇だしなあ・・・ひょっとして、
卵生・・・? そして犬であるオルトロスとはどうやって?
 分からん・・・知りたくもないけど。

 さんざんグロな子どもたちを造った後、結局彼女は
ヘラの命を受けたアルゴスによって殺されたという。

 ギリシア神話では怪物の母親としての位置付けばかりが
目立つ彼女だが、元はオリエントだかエジプトだかの
地母神系の女神であったらしい。
 蛇の体というのは確かにそれっぽい。大地ガイアの子
であるテュポンとは、確かにお似合いなのかも。

 ・・・・しかし、迷惑なカップルであったことは間違い
ないだろう。彼女の子どもたちは、ヘラクレスの十二の
難行のうち、実に5つに関わっている(逆に言うと、
ヘラクレスがいっぱい殺してる)・・・。
 ある意味、立派な母である。


  (註3)お姫様抱っこの可能性

 ひとりの人間がひとりの人間を持ち上げて運搬する
場合、よほどの体格差がない限り(運ばれる方が赤ん坊
とかね)、一番楽な態勢はおそらく「背負う」であろう。
 ただし、これは両手がふさがってしまう上に運ばれる
側が協力してくれないと非常に辛い。肩ひもなしで
リュックサックを背負ってみればよく分かる。

 どうでもいいが十二宮編で星矢が天蠍宮から人馬宮まで
瞬を背負って走っているが、このとき瞬の手は星矢の肩に
載せただけという状態だった。
 星矢にとっては支えにくいことこの上ないと思う。
せめて腕を首に回してやれ、紫龍。おんぶひもか何かで
くくっていれば大丈夫だろうが、だったら矢を避けた拍子に
投げ出された瞬がドサッ、とはならんよなあ。

 それはともかく。というわけなので、意識のない相手を
運ぶなら、「肩に担ぐ」というのが一番楽と思われる。
バランスはちょっと悪いが、片手が空くし。

 そして・・・俗に「お姫様抱っこ」と呼ばれる例の
横抱きの抱え方は、背負うよりさらに辛いと思うのだが
いかが?
 両手がふさがる上体の前方に重心が傾いて非常に
バランスが悪く、何より相手が協力してくれないと腕2本
だけで人ひとりの体重を支えることになるのだから無茶苦茶
重いのだ。さらに全体の横幅が広くなって動きにくいし、
脚の上下も制限されるし・・・

 お姫様抱っこの長所、それは一にも二にも「見栄えが良い」
である。違う?
 ただそれだけのために上記のような苦難に耐えている
聖闘士の皆様は、根性入れて見た目にこだわる人々なので
あろうか。
 さすが、美しさを重視した古代ギリシアを受け継ぐ人
たち。立派かも。


  (註4)Deus ex Machina(デウス・エクス・マキナ)

 ラテン語で、「機械仕掛けの神」。
 元は古代ギリシア演劇で使われた演出技法のことで
ある。
 舞台が大詰めになると、上からクレーンのような機械で
吊り下げられた「機械仕掛けの神」が降りてきて、混乱
した物語を強引にまとめてしまう、というものらしい。
 ここから転じて、難局打開のための安易な解決策
(いきなり神様はな・・・)を指していう。

 要するに、ご都合主義・・・と理解すればいいの
だろうか。身も蓋もないな。
 しかし、考えてみれば最終的に超越的な存在が出てきて
解決してくれるという考え方は、今でもあるものだな。

 盟がテュポンを「機械仕掛けの神」と呼んだのは、
それこそ身も蓋もなく何もかもをぶっ壊すテュポンの
本質と、ただそれだけのためという虚しい存在を指して
言ったものと思われる。
 それと、文字通りに取って「操り人形」的な意味も
あるかも。なかなか面白い表現だ。

 ・・・・しかし・・・・この話で一番、原意に近い
意味で「デウス・エクス・マキナ」だったのは、一輝
じゃないのか? 違います? ねえ?



            <完>