第2章
「Short Movie」
ネクライムは
いや、クリスタル・ナイツと言われる組織は、その本拠を上海の郊外の廃工場地下に据えていた。
一度はマグナポリスに勢力の殆どを奪われたが、中国マフィアの依頼で暗殺や破壊工作を請負い、各国にカジノやバーを増やし、半年でその利益は莫大なものになっていた。
劇場の破壊と首領の殺害を終えたルードヴィッヒ達は、工場内に入り車ごとエレベータで地下の本拠へと降りていく。
車を降り、基地へと入る。
基地と言っても規模は大きくなく、ミーティングを行うための広いダイニング、各国からの情報を収集する通信室、厨房、ミレーヌ・スティンガー部隊の個室、ルードヴィッヒの書斎兼寝室と必要最低限の住まいだった。
基地に入ると、ホークが出迎えた。
「お帰りなさいませ」
「うむ」
「爆破の事はさっそくニュースで報道されているようです。ご苦労でございました」
ルードヴィッヒは振り向きもせず、長袍を脱ぎながら指示を出す。
「ベアー、その金はネオトキオの武器開発に回してやれ」
「はい!!開発に当たっている隊員達も助かるでしょう」
「ウルフ、ホーク、今日の報告を聞こう。浴室まで来い」
「はっ!!」
そこに、ドヤドヤと声がして、リビングのドアを開けるものがある。
「いやー、遅くなってしまいましたどす!!…あっルードヴィッヒ様っ」
敬礼するジダンダの背後には、新しくスティンガー部隊の一人となった細身の男「クロウ」が立っていた。
元々はネクライマーの「ジョウ」という名前だったが、爆破物の扱いに長けている事を買われ、スティンガー部隊に配属された。
ルードヴィッヒが足を止め、ちらと振り向く。
「お前がクロウか、この度の働き良くやった」
「は…はっ!!ありがたき幸せ!!今後ともルードヴィッヒ様の手となり足となり…」
感慨しているクロウの背中をジダンダが軽く叩く。
「ちよっとちょっと、も、いないでございますよ」
ルードヴィッヒは、浴室でシャワーを浴びながら、壁に設置してあるモニターを確認しながら部隊の報告を受けていた。
左の腕には、大きな真一文字の傷跡が残っている。
一年前、ミレーヌに刺し殺されたふりをするためにナイフで貫かせた傷跡だ。
「…ヨーロッパ支部の拡大状況を見せてくれ」
ウルフ達は、浴室の外、書斎のモニターに次々とデータを表示させた。
「ベルリンからの報告では、先日ミサイル25機と戦車を納入…」
報告を受けながらシャワーを止め、熱い湯に浸かり目を閉じる。
「ネオトキオ、特にマグナポリスはどうだ…」
「…はい。相変わらず、メカ分署には権堂とクロードの二人のみが駐在。ウラシマンとソフィアは依然として」
「行方知れず…か」
「はい。このうちに、メカ分署を狙っても良いのでは」
ルードヴィッヒは湯から上がり、身体を拭く。
「マグナポリスを甘く見るな。それに、今や敵はやつらだけではない。日本の、世界の警察が私達が表に出るのを虎視眈々と狙っている」
「…はい」
厚手のバスローブを纏い、浴室から出る。
「確かに歯がゆいのは分かる。だが、今は水面下で勢力を伸ばす事が先決だ。報告ご苦労、今日は休んで良い」
ウルフとホークは深く一礼すると、私室から姿を消した。
ネオトキオ、郊外。
そこに、解体間際の警察病院があった。
病院の遥か地下には、ある専用の施設が作られていた。
リュウの超能力を開発するための施設。
一度はネクライムに破壊されたが、権藤は諦めず
小規模ではあるが、リュウの能力を向上させるために必要な設備を整えていた。
施設内の、広大なフロアー。
実戦と同じシミュレーションが出来るように、周囲を強固に作り
高い位置の窓から、その様子を観察する事が出来た。
リュウの前に置かれたのは、拳銃の訓練に使う人型の的が数個。
「おっさん、よく見ててくれよ!!」
リュウは右手を捻りながら上げた
そこに、小さな竜巻のような風が起こる。
権藤とクロードは、おおと感嘆して身を乗り出した。
リュウは風の発生する手を的にむかって振り下ろし、的の一枚がパンと音を出して二つに割れる。
「おおー」
リュウは次々に風を起こして、的の全てにぶつけて、宙に舞い上がらせると
次に手から圧縮した空気を送り出して弾丸のように的に当てて、粉々に砕いた。
「ダンナー、結構カッコイイんでないの?」
珍しく褒めたクロードにリュウは得意げにニヤニヤ笑った。
「これが、俺様が編み出した技「Wind Shot」さ、大気の流れを自在に操る超能力、イケてんだろ」
権藤は感涙した目で何度も頷いたが、しかし…と声を曇らせた。
「なんすかおっさん?」
「その威力なら…マグナブラスターの方が、強いかもしれん」
「そーそー、スティンガーの連中の装甲には、涼風ぐらいかもね」
リュウはムスっとして、口を尖らせた。
「そりゃー俺だってチャカ撃った方が早ええと思うよ。でもさ、このWindShotの威力をもっと上げてけば、かなり使いもんになるぜ」
権藤の隣にいたソフィアがフォローする。
「リュウの能力は、日に日に上がっているんです。この施設で定期的に訓練すれば、もっと凄くなりますよ警部」
「ふむ。それもそうだな。よしリュウ、今日は上がってきていいぞ!!」
リュウは施設上部にある監視ルームに入った。中で権藤とクロード、ソフィアが待っていた。
リュウは何かを思い出すように語る
「あそうそう、俺のも一個の能力披露します、パンパカパーン」
「わーい」とソフィアが拍手をする。
「リュウ?何か他にもあるのか?」
目をぱちくりしている権藤にニヤニヤと近づいていき
「おやっさん、おやっさんの何か、幸せなシチュエーション考えてみてよ」
権藤はうーんと考え、目を閉じた。リュウが顔を近づけてくる
「そんじゃ、おやっさんの額にコッツンコ☆」
と、リュウが権藤の額に頭を当てた瞬間、権藤をとりまく光景が変化した。
新緑鮮やかな春の空の下、花に囲まれた大きな家がある。
「お父様!」
玄関を開けて出てきた、一人の少女。
「メモル…メモルなのか!?」
「おかえり、お父様」
娘に掛けよろうとした時点で全ての光景は消え、目の前には済まなそうなリュウが立っていた。
「ごめん…おやっさんの過去、辛いこと思い出させた。ごめん」
頭をかきながら、深く権藤に詫びる。
「リュウ…今のは…今の光景は一体なんじゃ?」
リュウとソフィアは、この能力のあらましを説明した。
読心術の応用で、相手の心のうちを投影してあたかも現実のように投影する能力。
リュウたちは、それを「Short Movie」と名づけた。
次にリュウは、クロードに目を向けた。
「クロードちゃーん、クロードちゃんの幸せ、見せてもらえるかなぁ」
「ちょっと待て…うん…うんよし来い!!」
「合体☆」
したとたん、二人は絶世の美女達に囲まれていた。
「素敵な殿方、今晩よろしくて?」
「こっちの坊やのドングリ頭、キュートで痺れちゃう☆」
頬にキスをされるクロード、額に幾つもキスマークを付けられるリュウ。
美女達のアピールに、二人ともヘラヘラ顔になる。
「いやー、クロードちゃんの夢サイコー」
「旦那〜いい修行してきたねぇ〜」
「こんのドスケベコンビがっ!!」
ソフィアは、愛のハンマーを二人の頭部に食らわした。
「いってー!!ソフィア〜なんで俺らの夢、分かったちゃったの?」
「そんなスケベそうな顔して、誰でも分かります!!まったくもうっ、長老が聞いたらお怒りよ」
「てて、分かったよ。じゃあお詫びに」
「ん?」
「ソフィアちゃんの夢劇場、ご一緒していい?」
「キャイン☆じゃあ私は……これで」
ソフィア自ら、リュウの額に頭をつける。
二人の目の前に広がるのは・・・・
「きゃー、フルーツタルト、それにプリンアラモードも!!」
「おお、パフェに、アイス三段重ね、イチゴショートだぁ」
二人は、悦な表情で床に座り込んだ。
それを見下ろす呆れた表情のクロードと権藤。
「おやっさん、どーもこの能力、実戦には役立たないっスね」
「うーん、いや!!心理戦に使えるかもしれんぞ」
「…どうやって、第一相手に触れないと発揮しないんですよ。それなら、さっさと手錠(ワッパ)かけた方が早いじゃないですか」
「それも、そうだな」
真面目に論じている二人の声も耳に入らず、リュウとソフィアはまだ甘い夢の中にいた。
「あーん、あたしもう食べられなーい…このベリームースが最後」
「それじゃ俺〜このチョコパフェもらうよー」
権藤は、呆れて頭をかいた
「確かに、実戦向きではないな…」
第3章へ