最終章
「夢より遠い世界へ」


サンフランシスコ、国際空港。
一機の輸送機が止まっており、そこのハッチが開いて、タラップが出る。

陽光の下に、チョッパータイプのバイクを引きながら、リュウが歩み出て来た。

その後ろから、権藤警部、クロード、ソフィアも歩み出てくる。
リュウがちらと後ろを見て、申し訳なさそうに語る。

「いやー、俺の出発にこんな輸送サービスしてくれて申し訳ないねぇ」

クロードが笑って答える。

「ま、なんのかんの言っても、ダンナはネクライムとクリスタルナイツを店じまいさせた立役者ですからね、このくらい予算使ってもいいんじゃない」
「そうそう、リュウの新しい人生の旅立ちですもの☆」

ソフィアも笑って頷く。
権藤が一歩前に出た。

「リュウ…道中、気をつけてな」

権藤の目が潤むのを見て、リュウは少し申し訳なさそうに頭を下げる。

「ありがと、おやっさん…バイク、大切に乗るよ」

そう言って、バイクを引きながら歩み始めた。
ソフィアが傍らに付いて話しかける。

「リュウ…」
「ん?」
「メールでも、写真でもいいから…たまに、便りちょうだい」
「ああ、出来る限り、送る…」

クロードの手が、権藤を止める。

「ん?どうしたクロー…」
「チッチッ、これ以上進むのは野暮ですよ」

立ち止まって二人を見つめるクロードと権藤。
気付かないように、歩きながら話続けるリュウとソフィア。

「リュウ、もうグランドキャニオン目指すの…?」
「んー、その前に、ロスに寄ると思う」
「ロスかー、ハリウッドいいなー」

権藤とクロードは、徐々に遠ざかっていく二人の背中を見ていた。

「リュウ、旅費使いすぎて、文無しにならないでよ」
「はははは、そしたら、バイトでもするさ」
「もう…」

そこで、ソフィアの足が止まった。

「ね?」
「ん?」
「最後に、いいかな?」

ソフィアは、目を閉じて少し顔を上げた。
その意味がすぐ分かって、リュウは少し戸惑う。

「え?、いいの?」
「うん☆」

ちらりと後ろを見るリュウ

「後ろ、見てるけど?」
「構わない」
「そう、それじゃ…」

目を閉じて上を向いているソフィアに、リュウも顔を近づけてそっと目を閉じる
遠くで見ていた権藤が、驚いて強張る

「おおお…おいおい…」
「あららら、見せ付けてくれちゃって」

ソフィアの唇に、リュウの唇が重なる。
そのまま二人、深く口付けあった。

固まる権藤と、軽く笑って見つめるクロード
やがて、リュウの手はバイクから離れて、ソフィアの背に回る。
バイクは、ゆっくりと転倒して音を立てて倒れるが
二人は固く抱きあって抱擁を続けた。

「こりゃー!!わしのバイクと娘を傷物にするなーーっ!!」
「まーまー、せっかくの旅路なんだから、見守ってあげましょうよ」

しばらくして、唇を離して笑いあう二人。

「じゃ、元気で」
「ああ……」

リュウはバイクを起こすと、後ろに向かって大きく手を振った。

「おやっさーん!!クロード!!元気でなーーっ!!」
「ああ!!ダンナも達者でなー」
「わしのバイク、大切にしろよー!!」

ソフィアがにっこり笑って

「リュウ…」
「ん?」
「浮気、しないでね☆」
「へへへ…がんばる」

照れながらヘルメットを被り、バイクにまたがる。
そのまま、振り向きもせず地平線の彼方へ遠ざかって行った。





夕日の沈む、アリゾナの平原。
そこを、一台のチョッパーバイクが走っていく。

果てない地平線を見つめながら、リュウの胸は躍っていた。

次は何処へ行こうか
どんな人と会うだろうか
知らない土地で、どんな出来事が待っているだろうか
知らない時間の中で、どんな人生が待っているだろうか

平原を走り抜けていく胸の中は、期待と希望に満ちていた

生きていこう

誰も想像の付かない世界の中で
誰も想像のつかない時間の中で

アリゾナの平原に、夕日か沈む
その夕日に溶け込むように、一台のバイクが
まっすく、駆け抜けて行き
地平線へと、消えていく

生きていこう

誰も知らない、遠い時間の中で

夢より、遠い世界で

生きていこう。



                          The End