第13章
「Feather Tornado」



翌日。
ルードヴィッヒの護送計画の説明のために、メカ分署は司令部に呼ばれた。
権藤は、未だに部屋から出ないリュウに不安と苛立ちを覚えていたが、ソフィアに咎められて仕方なく3人で司令部に向かった。

説明を受けている最中、目の前のスクリーンが突然切り替わった。
そこには、ジュネーヴのカイゼルが映されている。

「どうしたんじゃ?」
「今、国際警察宛てにクリスタルナイツから映像が送られている。そちらにも転送する」

映っているのは、スティンガーウルフであった。

「なに…!!」

権藤が思わず腰を上げる。
ウルフは、構わずに語り始めた。

「警察及び、軍の者共。こちらはクリスタルナイツ・スティンガー部隊だ。今からお前達に、要求を行う」
「まさか?!」

クロードが声を上げる。
ウルフは冷徹な口調を保って続けた。

「要求はもちろん、クリスタルナイツ総統ルードヴィッヒ様の保釈だ。もしそれが守られない場合は…一つお見せしよう」

画面が切り替わり、そこにはモナコの街が映されていた。
突然、街の一角で爆破が起きて、白煙が上がる。

「…ご覧の通りだ。今は無人のビルを爆破したが、要求が守られなければモナコの数箇所に設置した爆弾を次々と爆破する」
「貴様らっ!!」

権藤が怒声を上げた。
しかしこちらからの声は通じていないらしく、ウルフは淡々と続ける。

「爆弾を撤去しようとは思うな、街中は監視している。もし不審な動きがあればすぐに爆破を行う。住民の退避も許さん、モナコの街はいつも通りの生活を保て…カイゼル」
「…何だ?」

苦しそうなカイゼルの声が聞こえてくる。

「まずは、ルードヴィッヒ様が、どこにおられるか教えてもらおう」

暫し悩んだ後、カイゼルは押し殺した声で語った。

「…プロヴァンスの空軍基地だ…」
「分かった。あと1時間後に保釈要求に応じるか確認を行った上でむかう。引渡し後、自分達が完全に逃走し次第、モナコに設置した爆弾の場所を教える」

そこで画像は切れた。
立ち上がった権藤は、全身を怒りに震わせ、机を強く叩いた。

「あいつらは!!また同じ事の繰り返しか!!」

そこに、カイゼルから連絡が入った。

「権藤…どうする」
「決まっておる!!奴等の要求は応じん!!」
「…本当にいいのか?」

心配そうに訪ねるカイゼルに、権藤は蒼白になって言葉を無くす。
だが、首を横に振った。

「ここまで来て、引き下がれると思うか…お互い、何か策を練ろう」
「分かった…私も今から、空軍基地に向かう」

そう言って通信が切れると、権藤は司令室の外に出ようとした。
ソフィアが訪ねる。

「警部、どちらへ」
「…リュウを呼んで来る。あいつにも協力してもらわな…」
「だめ!!」

ソフィアの叫びに、全員が驚いて顔を上げた。

「警部、もうリュウは戦わせないで!!」

必死に叫んで腕を掴むソフィアに、権藤は驚いて戸惑う。

「ソフィア…どういうことじゃ?」

ソフィアは辛そうに首を振って、苦しそうに語る。

「…フューラーを倒したとき、リュウは全然嬉しそうじゃなかった…それどころが、警察を辞めて旅に出ると言った…だって、だってリュウにしてみれば、同じ時代に生きた者。そして、自分の血を輸血した義理の兄弟…」
「……」
「そしてリュウは、ルードヴィッヒと共に飛んだのは…ルードヴィッヒの望んだ場所。ジョセフィーヌとの、思い出の場所…リュウはそこで、二人の辛い過去を見て…その悲しみを…救おうとした…」
「な…」
「ジョセフィーヌの無念を解くために、リュウは身代りとなって…ジョセフィーヌの思いと、ルードヴィッヒの思いを…二人の記憶を受け止めた…それは、余りにも悲しい出来事…」

ソフィアはすすり泣きながら、権藤の腕を掴んだまま膝を崩す。

「そこでリュウが知ってしまっもたのは…ルードヴィッヒの、心の奥底に眠っていた、悲しさと、辛さと…深い…愛情…それと、優しさ…リュウは、それを知ってしまった」

むせび泣く声の中、必死に訴える。

「そして…愛情すら…抱いてしまった…」
「ソフィア…」
「フューラーは、血を分けた兄弟。それをリュウは拒んで倒した。次に…リュウは…愛しさを抱いた相手を…捕まえた…なんて酷い運命」
「……」

権藤の目が見開き、全身が震える。

「酷すぎて…酷すぎて…もう、リュウの心はボロボロです…」

ソフィアは、また権藤の腕を強く握り返す。

「そんな思いをして、相手を捕まえたのは、警部!貴方の思いに応えるため!!」
「わしの…」
「もう、いいでしょ!リュウはルードヴィッヒを捕まえたのよ!!自分の心を押し殺してまで捕まえたの!!…お願い、もう彼を使わないで…傷つき果てたリュウを…戦わせないで…」

泣き崩れるソフィア。

「わしは…わしは…いったい何を…したんじゃ」

権藤もまた床に座り込んで、目に涙を溜めた。
ソフィアは涙に濡れた目を向けた。

「今度は、私が頑張るから…!!…リュウの分も、私が頑張るから!!だからお願い、リュウを…リュウを…そっとしておいて…」

二人床に座って泣き崩れる。
そんな二人の肩を、クロードが強く叩いた。

「二人とも、泣いてるヒマはありませんよ」
「…!」
「今も、モナコに爆弾が仕掛けられて時間が迫ってるんだ。ここで膝をついていてもしょうがない」

大きく息を吸って、クロードはしっかりとした声で語った。

「リュウのためにも、ちゃんと終らせましょう。俺たち三人で!!」

呆然と顔を上げる権藤とソフィア。
ソフィアが頷く。

「そうね、ここで挫けたら、リュウが救われない。ね、警部?」
「ああ、ここからはわしらが本腰入れて、クリスタルナイツとの決着をつける」

ええと三人頷いて、固く手を組み合わせた。
ソフィアが立ち上がって、司令室の警官に言った。

「モナコの地図を、表示させてもらえませんか」

権藤とクロードが、はっと顔を上げる。

「ソフィア…まさか?」

ソフィアは力強く頷いた。

「爆弾の場所を、探します」

そう言って地図の前に立ち、手をかざす。
その手が淡い金色に光はじめ、モナコの地図をなぞった。
地図上に、金色の点のような光がかすかに灯る

「…このブロックを、拡大してください」

光ったポイントを拡大され、また手の平でなぞる

「ハイスクールですね…もう少し場所を絞り…ます」

ソフィアの息が荒くなってきた。
顔には、汗が滲んでいる。
それでも、学校が表示された箇所を、念入りになぞった

「校舎の右側…この辺りに…あります」

クロードが晴れた顔で語る

「やりましたね、女神様」
「ああ…しかし問題がある」
「え?」
「爆弾処理班を近づければ、奴等に感づかれてしまう…」

重苦しそうにうなだれる権藤に、クロードははっとして何かを気付いた。

「警部」
「ん?」
「やつらはさっきこう言いました『モナコの街はいつも通りの生活を保て』
 だから、その通りにするんです」



モナコ、クリスタルナイツが関わっているカジノの地下奥。
数個のモニターに囲まれて、クロウはボタンをいじりながら、にやついてた

モニターには、救急車と、担架や医薬品を持った白衣の隊員がハイスクールに入っていく。
もう一つのモニターには、引越し業者が家具を搬入していた。

「お仕事がんばってますねぇ、結構結構」

馬鹿にしたような笑いを浮かべながら、モニターを見る。

「ま、ルードヴィッヒ様が保釈される分には、越した事ないですがね…俺としては、一発くらいボタン押したいかなー…なんてね」



プロヴァンス空軍基地。
ソフィアの透視は続いていた。

「次は……ここの…体育館…」

しかし、連続する透視はソフィアの気力と体力を激しく消耗し、彼女は息も絶え絶えになる。
クロードが見かねて、その肩を抱く。

「少し休め…気を失うぞ」

ソフィアは首を振る。

「だめ…市民の命がかかっています…それに…」

上げた顔には、涙が浮かんでいた。

「警部に…もう、辛い思いはさせたくない!!」

権藤はその言葉にはっとして、ソフィアを見る。

「ソフィア…」

必死に透視を続ける姿に、涙が流れた。
そこに入ってきたのは、カイゼルだった。

「権藤、様子はどうだ?」
「あれを見てくれ…ソフィアが必死に頑張っている」

クロードが言う。

「昨日の件、結局ソフィアが言ったモントルーにルードヴィッヒ達はいましたよ。だから、彼女を信じてください」

そこに、警察から連絡が入る。

「爆弾を発見しました!!ハイスクールと市民病院、両方処理を終えました!!」

全員が驚いて顔を上げる。
権藤はカイゼルを見た。

「カイゼル…ここは、私達を信じてないか?」
「…ああ」

カイゼルは深く頷いた。
しかしその背後で、倒れる音が響く。
見ると、床に倒れ臥すソフィアの姿。
クロードが慌てて抱き起こす。

「ソフィア、少し休むんだ!!もう限界だ」
「…だめ…まだ…」

ソフィアの身を支えながら、クロードは時計を確認した。

(あと30分か…このままでは、ソフィアの体力を考えると…間に合わない)

何か策はないかと思案を巡らす。
そうして、ソフィアの身体を抱き上げると、側にある長椅子に寝かせる。

「権藤警部、カイゼル司令…こうなったら、最後の手段です」
「…?」

クロードは振り向き、意を決したように二人の目を見据えて言った。

「あと30分後に、ウルフから連絡が入ったら、こう言って下さい
 『ルードヴィッヒを、釈放する』と」



始めの爆破予告から、丁度一時間後。
基地に、ウルフから連絡が入った。

「さて、答えを聞かせてもらおう」

ウルフの目の前にのモニターには、厳しい表情のカイゼルと
怒りに拳を握りしめて俯いている権藤がいる。
カイゼルが、辛そうに語る。

「テロには、屈したくないのが本当の気持だ。メカ分署が捕らえてくれた、世紀の重犯罪者を逃す事もしたくはない」
「ほう…それなら、覚悟はいいか」
「しかし!!…罪の無い市民の命を、引き換えにはできん」

カイゼルは怒りを抑えるように肩を震わせ、小声で言った。

「釈放…しよう…」
「ん?…今、何と言った?」
「ルードヴィッヒの、釈放要求に応じる」

にやりとするウルフ。
権藤が突然声を荒げた。

「貴様らの卑怯な手が、いつまでも続くと思うな!!わしらは諦めんぞ!!」

「それはそれは…では、あと30分後に基地に向かう。用意をしておけ」
「希望の場所は、あるか」
「…最も高い場所がいいな」
「分かった、司令塔の屋上にヘリポートがある、そこで引き渡しだ」
「ああ、念のため言っておくが、俺達が爆弾の場所を提供するまで、下手な真似はするなよ」

そう言って、通信は切れた。

30分後
司令塔の屋上には、十数人の警官が銃を携えて並び。
出入り口のドアの両脇に、カイゼルと権藤が立っていた。
程なくして、小型のVTOLが4機空から現れる。

スティンガー、ウルフ・ベアー・シャーク・ホークの4人は、権藤たちとは最も離れた場所に着陸した。
ウルフがVTOLから降り、前に出ると大声で叫ぶ。

「ルードヴィッヒ様を迎えに来た!!早くお連れしろ!!」

カイゼルが、扉に手を掛けてゆっくりと開く。
白いスラックスの足が、一歩前に出た。

二人の警官に付き添われ、陽光の下に姿を現す。
白いスラックス・ダークブルーのシャツ姿の、ルードヴィッヒ。
その両手には、まだ手錠が嵌められていた。

「…手錠を外せ!!」

ウルフの怒声に、ルードヴィッヒはゆっくりを手を上げると、権藤の目の前に差し出した。

「権藤、お前が外せ」

薄笑いを浮かべながら、低い声で命じる。
権藤は怒りに頬を引きつらせ、小刻みに肩を震わせた。

「う…うう!!」

権藤の右拳が振り上げられ、ルードヴィッヒの頬を殴ろうとする。
ウルフの怒声が飛んだ。

「余計な真似はするな!!俺の仲間はすぐにボタンを押せる状態だ!!」

権藤の拳は、ルードヴィッヒの顔の寸前で止められる。
カイゼルが、重い表情で権藤に告げる。

「君の気持は分かる…だが今は耐えてくれ」

権藤は、歯軋りをしながら、ポケットから小型のペンのようなものを出した。

「早くしろ」

冷酷なルードヴィッヒの声が投げられる。

「う、うおおっ!!」

悔しい叫びと共に、権藤はペンのボタンを押す。
掛けられていた手錠は、弾けるように外され床に落ちた。
ルードヴィッヒは薄く笑いながら、自分の手首を軽くさする。
次の瞬間、ルードヴィッヒは自分の膝を権藤の腹部に強く打ち込んだ。

「ぐうっ!!」

苦悶の表情で、権藤の膝が崩れ落ちる。
その姿を見下すようにして、ルードヴィッヒは鼻で軽く笑うと、ウルフに顔を向けた。
そうして、静かだが通る声で語る。

「出迎え、ご苦労。今からそちらへ行く」

一歩、また一歩と、ルードヴィッヒはウルフ達へと近づいていった。
その背に対して、権藤が声を荒げる。

「わしゃ諦めんぞ!!」

ルードヴィッヒは歩を止めたが、振り返りはしない。

「絶対に!!必ず、お前さんたちを全員とっ捕まえてやるわ!!例え地獄の底まで逃げても追っかけてやるわい、分かったか!」

ルードヴィッヒはゆっくりと振り返ると、権藤に対して不適に笑った。

「…言いたい事は、それだけか?」

声を詰まらせる権藤。
ルードヴィッヒはまたゆっくりと振り返り、ウルフの目を見て歩き出した。

ルードヴィッヒが、屋上の中間まで来た時、ウルフが高い跳躍を見せながらその前に立った。

「よく、来てくれた」

軽く笑って返すルードヴィッヒに対して一礼すると。
ウルフの手は、ルードヴィッヒの左肩と左腕に掛けられた。

「失礼!!」

布の裂ける音が響く。
ウルフは、シャツの左袖を激しく引き裂いたのだ。

露になった二の腕
そこには、あのナイフで刺された傷は、無かった。
それと、半袖の青いアンダーが除く。

「貴様ぁ!!」

ウルフの怒声と同時に、ルードヴィッヒと思われた者が、ウルフに対して激しい回し蹴りを入れた。
それを紙一重で交わし、銃を抜くウルフ。
その眼前に、脱ぎ捨てたシャツとスラックスを投げつける。
白いゴムマスクと、ブロンドのウィッグを外したその姿は。

クロードだった。

クロードは銃を抜き、口から何かを吐き出す。
それは、音声の変換装置だった。

「もう少し…時間が稼げると思ったけど…流石側近ですね」

その様子を見ていたカイゼルが、周囲の警官に叫ぶ。

「射撃開始!!、クロードを援護しろ」

警官隊がウルフたちに激しく銃を撃つ、怯みながらウルフは通信機に叫んだ。

「クロウ!!全部の爆弾を爆破だ!!」

権藤が蒼白になる。

「まずい!!まだ全部撤去したとは…!!」

ウルフからの連絡を受けて、クロウは小躍りする。

「へっ!!待ってました!!」

ためらいもせず、全てのスイッチを押した。

しかし、次にウルフの通信機に届いた音声は、予想を反していた。

「あ…あれ?ウルフさん?」
「どうした?!」
「何処も…何処も爆破されません!!」

その時、警官の一人が屋上のドアを開けて叫んだ。

「カイゼル司令!!爆弾の撤去が全て終りました!」

驚く表情を見せるウルフ。
それとクロードも権藤も暫し呆然とした後
クロードが最初に叫んだ

「よっしゃ!!女神様大成功!!」

権藤は、言葉も無く立ちすくみ
その目に、涙が浮かんでいた。

ウルフの通信機に、クロウの声が響いた。

「ウ…ウルフさん…大変です!!」
「なんだ!!」
「け…警官が!!…警官に囲まれました…わああっ!」

そこで、通信は途絶えた。

ソフィアは
全ての爆弾の在りかと、クロウが潜伏しているカジノの場所を当て
その直後、気を失って倒れ
医務室のベットに寝かされていた。

ウルフは通信機を握り締め、歯軋りをすると背後の部隊に叫ぶ

「一時撤退だ!!」

慌ててVTOLに乗り込むスティンガー部隊
カイゼルは、手元のマイクを持って叫んだ

「全機スクランブル!!」

直後、空軍基地から一斉に攻撃ヘリが飛び上がった。
基地のヘリだけではない、海岸に停泊している戦艦
周囲の警察の屋上からも、次々にヘリが発進する。

多数のヘリに囲まれ戸惑う部下にウルフは叫んだ。

「レーザーバズーカを使って打ち落とせ!!退路を見出す!!」

VTOLに乗り込み、バズーカを携えてスティンガー部隊が飛び上がる。
カイゼルは、屋上の警官と権藤たち退避させながらマイクに向かった。

「攻撃開始!!」

ヘリから発射される機関銃、司令室の建物のバルコニー全てからも
銃器を携えた警官が現れ、VTOLに対して銃を発射する。

カイゼルたちが階段を降りている最中、踊り場で突然権藤が膝を崩した。

「ありゃおやっさん、さっきの蹴り入っちゃいました?肉の厚いところ狙ったんスけど…」

いや、と権藤は首を振る。
その目からは、涙が溢れ始めた。

「権藤…」
「ソフィアが…」
「ん?」
「やってくれた…ソフィア…わしの娘が…やってくれたわ…」

目頭を押さえて肩を振るわせる権藤
カイゼルは、その背を軽く叩いた

「うむ。良い部下を育てたな…本当に、良い娘を…育てた」

クロードは軽く片手を上げると

「じゃおやっさん、俺もプロテクター着けて参戦しますよ」

そう言って、階段を降りて行った。

司令塔周辺では、激しい銃撃戦が行われていた。
数の上では警察と軍が圧倒的に上だが、戦闘に長けたスティンガー部隊は小回りの利くVTOLを巧みに操縦して、攻撃は中々当たらない。

それどころが、的確に打ち込まれる強力なレーザーで、ヘリが次々に落とされていく。
クロードはプロテクターを着け、慌てて建物の外に出た。

「ちっ!!あいつら、追い詰められてヤケになってるぜ!」

クロードも銃撃に参加するが、その直後、墜落したヘリが目の前に降ってきた。
慌てて建物に入り、身を伏せる。
玄関の前に墜落したヘリが大破し、爆風が建物に入り込んでくる。
その衝撃は、傍らに停車しているメカ分署にも届いた。

メカ分署内。
外での銃撃戦と、ヘリの墜落音は、リュウの部屋にも届いていた。
室内のテーブルやコップが、カタカタと音を立てる。
遠くに聞こえる爆音に、ベッドの中の腕が動き
足元に落ちている、アンダーを手に取った。

「まだ…終って…ないよな…」


司令塔周辺。
ヘリはすでに、5−6機が墜落していた。
しかし軍隊は手を緩める事無く、VTOLの背後を狙うように機関銃を発射させる。
それはシャークの乗っているVTOLのエンジンに当たった。

「うわあっ!!」
「シャーク?!」

ウルフが振り向いたとき、シャークは機体ごと爆煙を上げて墜落していた。
弾の飛び交う中、ウルフが叫ぶ。

「司令塔に進入する!!この警備だ!ルードヴィッヒ様は必ずここにいる」

3機のVTOLが司令塔の表玄関目掛けて近づいたとき、何処からか声が響いた。

「貴様たちの相手は、俺がする!!」

ウルフたちが声の方向を見ると。
そこには、屋上に立つ者がいた。

赤いアンダーウェアと、バトルプロテクター。

「ウラシマ・リュウ…」

ウルフの中に、今までに無い怒りが沸きあがる。

「貴様だけは…貴様だけは絶対に許さん!!」

叫びながらVTOLの中のランチャーを手に取った。

「ホーク、ベアー、上昇してミサイルランチャー用意!!」
「ラジャー!!」

3機のVTOLは急上昇して、同時にランチャーを構える。
リュウは、仁王立ちのまま動かない。
下にいたクロードが、声を上げる。

「ダンナやばい!!逃げろ!!」

ウルフ達は、リュウに照準を合わせる。

「貴様は…地獄にも行けぬよう、灰にしてやる!!」

同時に、ランチャーから小型ミサイルが発射され。
それは、リュウのほぼ頭上でぶつかり合った。
リュウの身体は、激しい火柱に包まれ、爆音と爆風が凄まじい勢いで巻き上がる。

「リュウーっ!!」

爆音とクロードの叫びに
ベットで横たわっているソフィアの瞼が動いた。

ウルフたちは、ヘリの攻撃を避けるようにして眼下の火柱を見つめる。

「やったか…」

だがその直後、彼らは信じられない光景を目の当たりにした。
火柱と煙が消え、その中には
変わらない体制で立ち続ける、リュウの姿

「何ィ!!」

リュウの身体を取り巻くように、激しい空気の渦が巻き上がっている。
激しい気流の渦が、彼の身を守っていた。
その様子にクロードが叫ぶ

「…やばい!!」

リュウの身体を取り巻く渦は、なおも激しさを増し
やがて、金色の渦と変わり、そこから白い羽根が沸き出てくる。

医務室で横になっていたソフィアが、はっと目を覚ます。

「…リュウ、だめ!!」

ふらりと起き上がるソフィアを、看護師が止めた。

「どうしたんです?まだ起きては…」
「だめ…リュウ…それ以上」

看護師が止めるのも聞かず、ソフィアはふらつきながら医務室を出た。

ウルフは、眼下で起きているリュウの状態に暫し目を奪われたが、押し殺すような声を上げた。

「…化け物がぁ!」

再びリュウに向けてランチャーを向ける3人
リュウは舞う羽根の中、ウルフに顔を向け、呟くように語った。

「もう…終わりにしよう…」

そう言って、静かに両手を上げる。
両の腕から、なおも激しい竜巻が起きて、無数の羽根が次々と吹き出す。

「ダンナ…それ以上やるな!!」

クロードの咎める声も聞かず、リュウは羽根の渦巻く腕をウルフたちに振り上げた。
それはもはや、風というよりは竜巻
羽根を孕んだ竜巻が、ウルフ達を襲う。

ソフィアは壁を伝いながら、銃撃戦を繰り返しているバルコニーへと近づいた。
気付いた兵士が咎める

「ここは危険だ!!下がっていろ!!」
「リュウが…リュウが死んじゃう…!」

兵士に咎められながら、ソフィアは外に向けて叫んだ。

「もうやめてリュウ!!」

眼前にせまる羽根の竜巻に、ウルフは顔を覆う。

「こんな…まやかしに怯む俺ではない!!」

ランチャーを構え直そうとした瞬間
ウルフを取り巻く羽根の一枚一枚が、強固なプロテクターを破壊し始めた。

「何ィ?!」

羽根は、プロテクターも、ランチャーも、VTOLも、崩すように破壊を始める。
そしてウルフの身体は、激しい竜巻に包まれた。

「う、うわあああっ!!」

同じように、ベアーもホークも、激しく巻き上げられて
3人は、地面に叩きつけられた。

同時に、リュウの身体を取り巻いていた竜巻も羽根も消える。

「やっと…」

リュウは激しくふらつきながら、屋上の端へ倒れこんでいく。

「終った…のかな」

ヘルメットが足元に落ち
リュウの身は、そのまま屋上からゆっくりと落下していく。
ソフィアは、涙を溜めた目で外に必死の叫びを上げた。

「リュウウ〜ッ!!」

落ちて行くリュウを追って、クロードは激しく跳躍する。
3階辺りの高さでリュウの身を抱きとめ、プロテクターのジェットを最大に吹き上げた。

「リュウっ!!死ぬなーっ!!」

ゆっくりと落下しながら、クロードは必死に叫ぶ。

「ダンナ、しっかりしろ!!リュウ!リュウ!!」

地面に背を打ちながらも、クロードは懸命に呼びかけたが

リュウの目は、開かなかった。


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