第10章
「レマン来襲」


翌日の夕刻、リュウとクロードはジュネーブの国際警察署で権藤たちと合流した。

「リュウ〜☆クロードー!」

嬉し顔でソフィアが出迎える。

「リュウ、ご希望の輪っか付き乗り物持って来たわよ」
「ん、ああ…ありがと」

今一つな反応のリュウに、ソフィアは首をかしげる。

「どうしたの、これでスイス走りたいって言ってたじゃない?」
「お?おおそうだよ、うん…じゃ、ミャーと輪っかさんたちに会ってくるよ☆」

そうして小走りに部屋を出るリュウ。
ソフィアはクロードに訪ねた。

「何かあったの?リュウいまいちじゃない」
「うーん、昨日変なモノ食ったとは思えないしね」
「何食べたの?」
「…チーズフォンデュ」
「あーん、いいなー!!今日は私も食べるっ」

そこに権藤が入ってきた。

「だから、観光じゃないと言っとるだろうがっ!…お前達、カイゼルが呼んどる。リュウは?」
「メカ分署に行きましたよ」
「…ったく、ま、わしらだけでも挨拶に行くか」



モントルーの別荘。
ルードヴィッヒは、部下達と作戦の手順を確認していた。

「では、ベアーとクロウは、今からジュネーブ方面に向かってくれ。他の隊員達への説明は任せる」

ベアーとクロウが頷いて、足早に部屋から出て行った。

「キャットとシャーク、船の用意は?」

キャットが頷いて報告する。

「はい、湖岸に設置してあります。後は必要な機材の搬入が終わればいつでも」
「うむ。積み込みは日が暮れてからにした方が良い。シャーク、遠隔カメラは?」
「ここにあります。高感度で深夜でも監視可能です」
「よし、作戦の開始は午後11時、出航は12時を目安とする」

ルードヴィッヒの命に、一同は頷いた。



ジュネーブ、国際警察署。
カイゼル長官は、権藤からの話に重く頷いて、ソフィアに聞いた。

「…君の反応では、モントルーの方に何かあると言う事かね」
「はい。この周辺で何か強く感じました」
「そうか、明日にでも捜索にかかってくれ。今日は遠路はるばる疲れただろう、私の方でディナーをおごろう」
「キャイーン☆」

夜、11時。
メカ分署のメンバーは、国際警察署脇に停車したマグナポリスで深く寝入っていた。
ソフィアが、何が気付いたようにはっとして飛び上がり、権藤に連絡を取る。

「うん…なんじゃソフィア、こんな夜中に…」
「何か…何か来ます!!」
「ん?!何か感じたのか?」

その時
レマン湖のジュネーブ側に停泊していた、哨戒艦艇の周辺に
爆発を伴った、巨大な水柱が発生した。

ベアーとクロウ率いる部隊が、上空から爆弾を落とし、バズーカで船を攻撃し始めたのである。

その知らせは、すぐにメカ分署にも届いた。

「大変だ!ジュネーブ側に待機している水軍の哨戒艦艇が攻撃を受けている」
「なんじゃと!?敵は?攻撃相手は?」
「まだ分からんが、その時の影像を送る。確認してくれないか」

カイゼルから送られた、攻撃の瞬間の動画を全員で見る。
クロードが注意深く見て、上空に指を刺した。

「VTOLで、上から攻撃してますね…暗くて分かり辛いですが、この機体はおそらく」

リュウが口を挟む。

「ネクライマーがたまに使ってたのと、似てるよな」

ソフィアが気付いて、指を指した。

「この体系…そしてバズーカ…」
「ベアーさんですね、分かりやすい」

クロードが返す。そして呟いた。

「しかし、スイス水軍を攻撃してどうしよってんでしょ?」

権藤が叫ぶ。

「呑気に構えとれんぞ!!これがクリスタル・ナイツの攻撃と分かったら、お前達さっさと仕度せんかっ!」

クロード・リュウがえっとする。

「え、でも、水軍が受けてる攻撃でしょ」
「俺達が入って行ったら、越権行為になるかも」
「その辺はカイゼルを通して許可済みじゃ!!早くいけっ!!」

権藤の怒声に、二人は慌てて外に出ると、スポイラーとビートルに乗り込んだ。

レマンでの爆破行為は、断続的に続けられていた。
クロウが喜んで、次々爆弾を投下させる

「いやー、水際の花火もいいねぇ、この水柱…俺の作成した爆弾の威力で出来たんだぜ」
「クロウ!」

ベアーがきつく制する

「必要以上の爆破は起こすな。在庫が無くなる」
「へ、へい…」

ベアーは、上空のヘリ部隊に大きい声で告げた。

「いいか、適当に騒ぎを起こすくらいにしておけ!!目的はモントルーの警備を手薄にすることだ」


同じ頃、モントルーの別荘。
大広間で、ミレーヌがモニターを注視している。

「ルードヴィッヒ、予定通り。この近辺に停泊していた哨戒艇が、一隻を残してジュネーブ方面に向かっているわ」
「うむ。ベアーたちには、あと10分攻撃したら退いてくれと伝えてくれ」
「はい」
「キャット、シャーク、ホーク、出航しろ。ステルスシートを忘れずにな」

湖岸から、ゆっくりと船が一隻出る。
船は、フランス国境付近に辿り着くと、ホークを残して二人湖底へと潜水した。

ジュネーブ方面で攻撃を繰り返していたベアーとクロウに、ミレーヌから連絡が入る。

「予定通り、こちらの船はジュネーブに向かったわ。後10分攻撃したら撤退して」
「はっ!!」
「えっ、もう終わりですか?」

ベアーが怒って返す。

「これ以上続けると、空軍がくるぞ!お前が攻撃されたいのか?あとは打ち合わせ通りフランスのリヨンに向かう」

不満そうに、クロウは頷いた。



リュウとクロードが、レマン湖畔の攻撃地点に着こうとしたとき、権藤から連絡が入った。

「今しがた、攻撃が止んだと連絡が入った。連中はどうもフランス方面に逃走したらしい…一度戻ってきてくれ」

その報告に、クロードとリュウはあっけにとられる。

「ダンナ、いったい何だったんでしょね?」
「…俺に聞かれても…分かりました。メカ分署に戻ります」



レマン湖上、フランス国境付近。
ホークは船上で、湖底での作業内容をモニタリングしていた。
その様子は、別荘のモニターにも映される。
キャットから連絡が入った。

「予定地点から25メートルほど離れた所に、マンホールらしきものを発見しました。おそらくこれだと思います」

ルードヴィッヒが告げる。

「うむ、慎重に作業してくれ」

二人は、入り口付近に水抜きのためのボックスを設置して、中に入ると空気を入れ水を抜いた。

「ホールの蓋を、外します」

蓋を外すと、下へ向かう階段が続いていた。
頭部のライトを強め、中を照らしながら二人階段を降りていく。

数十メートル下ると、目の前にドアがあった。
シャークが鍵の状態を調べる。

「鍵はかかっていますが、この程度なら軽く飛ばせます」

そう言ってボタン上の小型爆弾を取り付けると、階段を少し上に昇ってから爆破させる。
ドアを開け、室内の様子を照らした。
クローゼットほどの小さい室内。
棚に、大型のジェラルミンケースが4つ重なっている。
キャットがケースを撮影しながら報告する。

「おそらく、これがコレクションと思われます。全て回収でよいでしょうか」
「ああ、全部上げたら、戻ってくるように」

落ち着いて返すルードヴィッヒに、ミレーヌは息を付いて語りかけた。

「いよいよご対面ね、世紀のお宝」

ああと返すルードヴィッヒの眼は、月を照らす湖面に向けられた。



翌朝。
ジュネーブに滞在しているメカ分署では、4人がカイゼルと連絡を行っていた。

「という訳で、昨日の攻撃では哨戒艦艇2隻に損傷があり、5名が負傷。おそらくクリスタルナイツの攻撃と思われるが、目的は不明だ」

クロードが聞く

「連中、フランス方面に行ったらしいですが、その後の足取りは?」
「いいや、奴ら逃げ足は早いからな。ところで、ソフィア君」
「はい?」
「君は昨日、モントルー方面に何かあると言ってたが…」

そこまで聞いて、ソフィアの顔色が変わった。
続けてカイゼルが言う。

「だから、モントルー付近の監視を強化していたんだ」

深く息をつくカイゼル。ソフィアは辛そうに俯いた。
その様子に、権藤が腰を上げて言った。

「カイゼル、ソフィアの能力は…!」
「権藤、君が超能力者を捜査に使うという案は良いと思っている。しかし前代未聞の試みだ。もう少し慎重に研究を行ってからの方が、良いのではないか」

リュウが声を上げた。

「ソフィアは間違ってない!!」

咎めようとする権藤を振りきって、真剣な目をカイゼルに向けた。

「ソフィアの能力は俺達がよく知っている、現に、一度奴らの基地を…」
「やめてリュウ!!」

ソフィアが制して、カイゼルに深く頭を下げた。

「司令。確かに、私の能力が至らなかったと思います。本当に申し訳ありません」
「ああいや、そこまで気にしなくとも良い。権藤、私は君の方針が悪いとは言ってない。より一層の開発が必要と言っている。そこは分かってくれ」

通信が終わり、うなだれているソフィアの肩を、リュウが軽く叩いた。

「石頭は気にすんな。俺達は、ソフィアの千里眼を信じてるぜ」
「リュウ…」
「そーそー、俺達は俺達で女神様のお告げに従いましょ」

権藤が頷いて、低い声で告げた。

「うむ、リュウ・クロード、早速モントルー周辺の調査に入ってくれ」

3人は、深く頷いた。



モントルーの別荘。
キャットとホークが、大広間にアタッシュケースを運んできた。

「こちらで、全部になります」

ルードヴィッヒは頷いて、一個のケースをテーブルに上げさせた。

「鍵は、かかっているな…」

シャークが頷く。

「はい。ただこの程度なら、軽く爆破出来るかと」
「慎重にな」

シャークはボタン型の爆薬をケースにセットし、鍵を飛ばす程度の爆破を行った。
ルードヴィッヒが、ケースのボタンを押して、蓋を開ける。
その場にいた全ての者が、ケースの中を見て息を飲んだ。

数個のアクリルケースが並び、その一つ一つに宝物が収められていた。

ロザリオ・短剣・宝飾品…全てが貴金属と宝玉で彩られている。

「見事ね…」

ミレーヌが息を付く。
ルードヴィッヒは手袋をはめて、ロザリオの入っているケースを手に取った。
それを見てミレーヌが言う。

「ルイ…ブルボン当たりの品かしら。16-7世紀当たりだと思うわ」
「へぇ?お分かりになるのですか?」

感心しているジタンダ。ミレーヌは指を指して続けた。

「この時代はまだ、宝石のカット技術が進んでいないから、全て丸く削られているの。でも、この奥ゆかしさが良いという人も多いわ」
「うむ…」

ルードヴィッヒは箱を開け、ロザリオを手に取った。
見た目以上に重く感じるそれは、長い間湖底に眠っていたためか、手袋を通しても冷たさが伝わる。

その感触は、あの雪の日
最期に触れた彼女の手を、思い出させた。


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